館 カレンダー『北国の小さな物語』
★1999年 5月★
『湖畔の桜』

3月も終わろうとする頃
ぼくは湖の氷が割れて、
氷がひとつ、またひとつときえてゆこうとする情景を
飽きることなく見つめていたことがある。
毎日、毎時間、その形、色彩を変えてゆく氷の湖の変遷。
その氷の湖にひと月の時が流れ、桜の花が咲く。
水ぬるむ頃、春の陽気はなんとやさしさにみちているのだろう。

[歓喜の季節]
五月になると、北国は一度に春の歓喜に満ちあふれる。刻一刻と春が進み、色彩の乏しかった世界が急ににぎわいできて、命という命のたてる喝采の音があふれ出すのだ。こぶし、桜、タンポポ、ブナ、山菜……そしてスモモやリンゴなどの果樹の花たちが咲き乱れ、丘では農夫たちが収穫を夢見て、大地に種子をまく。遠くに見ゆる白き峰々は春の陽気にかすみ、うららかな春の風は幸せの匂いを運ぶ。ああ、何もかもが五月から始まる。五月─なんて素敵な季節なのだろう。