の世界
67 しし座流星群の夜に 200111
しし座流星群の夜に

-北海道 七飯町大沼-

 ■今月はしし座流星群の夜から一作品


 今月の作品は予想通り、しし座流星群の夜から一作品選びました。去る、11月18日から19日未明、その流星群は起こりました。しし群のピ-クは非常に鋭く、夜11時〜明け方にかけてのわずか6時間に集中しました。普通の流星群はたいてい2、3日幅があるものですが、しし群の高まりは強烈です。飛び始めたかと思うと1時間に数千個もの流れ星が雨のように降り注ぎました。僕たちは、このしし群を北海道南、長万部町の近く、奥ピリカの地でむかえました。
 奥ピリカは函館から北にちょうど100kmのところ,カニカン岳の麓にあります。僕たちがここを選んだのは津軽海峡の漁り火から少しでも離れたい一心からでした。この願いはかなえられ、漁り火に照らされて白くなっていない夜空でしし群と出会うことができました。奥ピリカに着いたのは,午後10時。急いで撮影準備にかかろうとすると、いきなり空の端から端まで飛んでいく大流星と出会ってしまいます。こんなのに最初から出会ってしまうと、これからどうなるんだろうという期待よりも、不安になってきます。本当に落ちてこないのか?あたらないだろうな?などといった不安を感じ始めます。とにかくいつになく空も暗く、大地も暗い夜の始まりです。
 

 間もなく,タカハシのP2赤道儀に1台,三脚につけたカメラ4台の計5台の6×4.5カメラで撮影を始めました。P2赤道儀には45mmF2.8のレンズに感度800に増感するコダック社のE200を装填し、三脚に同架したカメラのうち3台にはそれぞれに35mmF3.5のレンズをつけ、残りの一台は24mmF4という対角魚眼レンズで撮影します。フイルムは各々コダック社のE200フィルムをISO800に増感するものとフジクロ-ム400、1600を1600に増感するものを使った。
流星を写すためには、少しでも明るいF値のレンズに少しでも高感度のフィルムを必要とします。そのために結局ぼくはISO800とISO1600の感度のフィルムを使うことにしたわけです。しかし、これだけの感度のフィルムを使い、F値が2.8とか3.5くらいになると、都市近郊の夜空ならせいぜい露出できても、3分〜5分がいいとこで、写る確率は非常に小さくなりますし、三脚に固定して写した時、美しい星の軌跡と共に写せないし、赤道儀で写しても夜空の星はほとんど写らなくなるのです。つまり、夜空が明るいと、明るい流星だけ写って、夜空の星は写らないということになるわけです。そこで、どんな撮影機材を使おうとも、最後には暗い星空が必要なのです。ここ奥ピリカの夜空はそういう意味では80点くらいです。特に流星が一番飛んだカシオペアやペガサスあたりの空には光害がなくて、山際近くまで真っ暗だったので、山際を明るく照らし出す大きな流星を何百と見ることになりました。北西の空ではまるで雨のように流れ星が飛んでいました。一カットに20個くらいも写っているフィルムがあるわけです。
 

 お送りした作品は赤道儀で追尾して星を点像に写した一枚です。視野のまん中当たりを見ると、見慣れたカシオペア座があるでしょ?カシオペア座がわかると、画面上に行くとペルセウス座に連なり、流星の頭あたりにはペルセウス二重星団と、その横にIC1805,IC1848という赤い散光星雲が見られます。また、カシオペアから画面左に小さな星雲が写ってるでしょ?これがアンドロメダ星雲です。カシオペアをはさんでアンドロメダと反対側に光っている2等星がこぐまのα星、我々の北極星です。この作品は着いてすぐの2枚目に写したもので、カシオペアはこれをいれて計4枚写すのがやっとで、(45mmF2.8、10分)4枚目を写し終えた時には、かなり地平線近くに傾いてしまいました。そこで、カシオペアを諦め、次に向けたのが、オリオン座を中心とした、冬の星座。冬の星座に向けてから45mmだとはみでるなあ、35mmレンズに変えたいなあ、と思い思いしながら最後まで45mmで押し通してしまいます。カメラ5台も使っていると、露出の計算で頭が一杯。なかなかレンズを変えるくらいのこともできそうでできない。そのうち、気温はマイナス5℃位に冷え、赤道儀も何もかも凍り付いてしまう。(写真)45mmレンズに巻き付けたカイロだけがたより。カイロのぬくもりだけが命の綱。レンズだけはくもらせるわけにはいかない。カメラ忘れてもカイロ忘れるな! とは僕たちの標語。それくらいカイロは重要。晴れていても、地表は夜露でびしょびしょ。植物たちや虫たちはこの夜露がないと生きていけないのだろう。しかし、写真を写す時には特に困り者。夜露を制すれば成功は半分勝ち取ったも同然。しかし、写真にもあるように、凍り付きながらP2赤道儀はけなげにも動いていた。もう途中からガイドも何もできない。赤道儀にまかせてしまった。ただ、凍ってくれるなよ!と祈りながら過ごしていた。

そして、夜明け前、ダメもとでむけた北斗七星では大火球が写った。流星にはことごとくついていない僕だったがそれでも今回だけは何とか写すことができた。そして、フィルムよりもこの目に写った無数の流れ星は生涯忘れることはできない。暗闇にいると、流星はまるで雷のように光り輝き、夜闇を照らし出す。そんなことが何10ペンもあった。33年に一度のしし座流星群。前回の流星群の時にぼくはこの世に生まれた。次の流星群と出会えるのは、70才になった時だ。人の一生の時間はなんて短いのだろう。しかし、そのことよりも、今回一番強く感じたことは地球が一つの宇宙船で、宇宙空間を突き進んでいるんだなあ、というそのことだった。ぼくは宇宙船地球号の窓際の特等席に座ってこの美しい流れ星を見ることができた。地球人として、最高の幸福を経験した内の一人だった。地球は確かに宇宙空間を果てしなく運動している。これを学校では公転と教えるだろうが、この歳にならないとこれを体感できないのか!と思った。地球は自転しながら確かに公転し、宇宙空間を突き進んでいる。この大きな地球に働くこの大きな力、これはいったい何で、いったいどこから誰が加えたものだろうか?
 


 しし座流星群を無事、楽しんだ僕たちはいったん帰宅し、次の夜も奥ピリカに出かけた。しかし、しし群の時ほど透明度は上がらず、しかも、途中から曇ってしまったのですごすご帰って来た。それから続けて二晩、長万部近郊に撮影に出かけた。先月紹介した、タカハシのε-200という望遠鏡で、アンドロメダ星雲をどうしても撮りたかったからなのです。結果は少しピントが甘かったものの、良く写ってくれた。ε-200は口径20cm焦点距離800mmF4の反射望遠鏡で、メ-カ-の言う通り反射にしては良像範囲が広く、確かに60mmはあった。
これで、実写野4゜を800mmF4で写すことができる。4゜というのは満月の8個並べたくらいの広さ。これを同じくタカハシの160JPという赤道儀で追尾した。追尾を始めて、すぐ驚いてしまった。160JP赤道儀―うわさには聴いていたが、ものすごい精度で造られた赤道儀だ。かなり安い中古品を買ったので心配だったが、始めてから5分でこの赤道儀の力を思い知った。これをもってすれば800mmくらいいける!と思った。そして、結果も満足だった。今までの苦労は何だったのだろうと、思った。日本のメ-カ-が本気で造ったものはすごい。
後はピントを合わせることさえできれば皆さんにお見せできるようになります。あと、もうちょっとです。

■11月7日〜13日、札幌サンピアザ写真展開催

時は前後しますが、11月7日〜13日の写真展無事に終わりました。札幌サンピアザではこれで3回目になるので、多くの知り合いの方と再会できてとても楽しい時間を過ごすことができました。誰よりも、小野寺真由美さんにはお世話になりました。彼女はお客さんでありながら、慶ちゃんと二人仲良く受付けまでしてくれました。彼女の故郷は北海道、和寒(わっさむ)です。彼女は子供のころ、前も後ろも上も下も右も左もない夜にまぶしいほどの星空を見ていたそうです。この経験が彼女を星好きにさせていて、星が彼女の心のよりどころになっているみたいでした。まぶしいほどの星明かり。ぼくは一度も体験したことがありません。いったいどんなに素敵なんでしょうね!そんなところはもうこの日本にはありません。小野寺真由美さんの心の中だけに大切にしまわれてしまっているからでしょうか?さあ、みなさん。彼女の心の中をのぞいてみましょう!きっと、きれいな星空が大切にしまわれてますよ。
 あと、
小泉隆義さんというかなり変わった人も来てくれました。彼は数年前「ぼく、ピアニスト。Wifeはバレリーナ」と、言って我が写真館に入って来るなり、ピアノを弾き始めた人です。ぼくは直接話せませんでしたが、慶ちゃんが話したところちょっと元気がないとのことでした。小泉さん元気出して下さいよ!―アンドロメダ銀河上手に写ったら真っ先に送りますからね!―彼は今回カレンダーの注文時に、僕にアンドロメダを撮れ!と命じました。ぼくは「任せて下さい」と心の中で答えていました。今はまだまだお見せできませんが今度、アンドロメダと対じする時には、ものにしてきたいと思います。
 あと、
タコヤキを持って写真展期間中僕たちの泊まっている車を探してくれた人たちもいました。普段人との接触の極端に少ない僕たちにとって、写真展は質の高い、人との出会いを約束してくれます。普段仕事で会うのは別に会いたくもなければ、口もききたくない人が多い。そして、かえってそんな人ほどかかわりあいを持たなければならないことが多かったりする。ある時、星が見えないから、夜には無駄な街路灯を消して下さい。とお願いしたら、防犯のためだ!と言って、絶対電気を消そうとしない。防犯を言うなら国が定めた適切な街路照明の基準に従うべきですよ!というと、そんなことは知らぬと言う。狂牛病のことも知らなかった!とサロマ町は言っていたが、適切な街路照明のことも国だけが知っていて、地方も、地域も誰もそんなことは知らない。普段、僕はそんな人たちの側にいる。
 そんな人は生まれてこのかた、星なんぞ見たこともない。夜に星があるなんてもしかしたら知らないんじゃないか?―しかし,写真展でアンケートをとってみると、星の人気は高い。
 

 特に女性からの人気は高い。それだけ、写真展に来る人の多くは感性が豊かだ。また、カレンダーの時期、多くの人のメッセージを見る機会に恵まれる。これらのメッセージの豊かさと、普段の人々とのギャップは大きい。そして、メッセージから伝わってくる一番のことは年令にかかわらず「元気」がびんびん伝わってくることだ。まるで年令を感じさせないことが多いのです。カレンダーに癒されてねえ!なんて言う人が多いけれど、こちらこそ、あなた方に癒されてます!と、メッセージを読むたびに思う。メッセージをくれた人みんなにお答えしたいのに、なかなかそうもままならぬ日々。でも、この世は疲れている人の中で、心に輝く炎を持ってる人が点在していることだけは確かなことだ。ぼくの仕事はこの人たちを孤立させないことだ。なんらかの方法で心と心をつなぎ合わせられないのか!?
そんなことをしきりに思いつつ、今度の新月の夜に向かって着々と準備を進めております。