の世界
68 冬の川 200112
冬の川

-北海道 中山峠-

 夢のようだったしし座流星群の夜から一ケ月がたった。今だ、あの夜の興奮は覚めることはない。

多分、一生涯、目を閉じれば、まざまざと思い出すのだろう。しし座流星群の次の夜も、晴れていたので、いったん函館に戻ってから、再び奥ピリカの地に出向いた。しかし、透明度は流星群の時ほど良くなくて、空は光害の影響で明るかった。しかし、とにかく撮ろうと、沈もうとしている順に撮影にかかった。
 まず、白鳥座。その後は、カシオペアにこだわった。しかし、昨夜よりも天の川の濃度は薄い。カシオペアの次は、ぎょしゃ座を狙おうとした。その一枚目、雲が通過したため、だめだった。二枚目途中でレンズにつけていたカイロの火が消えてしまい、失敗。3枚目はまた、雲が来て、その後晴れなくなってしまった。始めは良く晴れていたので、今晩はゆっくりやれるだろうと思っていたら、夜11時頃から曇り始め、わずか5分程で雲に覆われてしまった。ぎょしゃの次はこれを写してそれからあれを……と予定していたのに、むなしくも雲に覆われてしまった。ああ、今夜もかあ……と肩を落として函館に帰った。
 

 ■160JPとε-200を初めて使う

それから2日後、再び晴れた。それで、再び奥ピリカに出向いた。しかし、着いた途端、曇ったので場所を長万部に変えた。長万部の空はクリアーだったが、奥ピリカで曇った分、かなり時間をロスしてしまっており、もう11時を回っていた。急いで。望遠鏡のセッティングにかかった。今夜は始めて使う160JPという赤道儀にこれまた初めてのε-200という20cmF4という反射望遠鏡を同架して撮影を始めた。まず、始めに念願のアンドロメダ銀河を狙い、続いてプレアデス、バラ星雲、オリオン大星雲などを撮影して行った。160JPという大型の赤道儀はうわさ通り精度が高くて、ほとんどガイド修正の余地がないほどで、驚いた。露出は感度600のフィルムで20分一定にした。その結果、露出時間は完ぺきだったが、ピントが悪かった。1000円の安物ルーペでピントを合わせたことと、ぼくのピント合わせの認識が浅かったのが失敗の原因だった。なかなか写させてくれない。後日、この失敗にこりたぼくは早速、涙を飲んで高価なルーペを購入した。その次の夜、いったん函館に帰ってから再び、長万部に出向き、今度は500mmF4でオリオン座の三ツ星の下あたりを中心に撮影した。500mmF4というのはボーグの12.5cm屈折望遠鏡だ。これは今まででは考えられないくらい良く写った。しかし、決してこれがベストとは言えない仕上がりだった。要するに、不満足な結果だった。しかし、反射とは違って、ピントは申し分なかった。屈折だと、カメラ付属の4倍くらいのルーペで充分実用的である。しかし、ピントは良かったが、多分、かすかな霧の為にぬけのよい作品には仕上がらなかった。今夜もまた失敗だった。それ以来、徐々に月が大きくなって行き、撮影できなくなって行った。おまけに今年は12月だというのに雪が多い。いつ止むとも知れぬ雪が降り続き、新月が近づいて来た。

 ある、新月が近づいた夜のこと、昼過ぎから晴れた。急いで、撮影に出かけたが夜には曇ってしまった。また、次の夜高気圧が来ているというのでまた出向いた。今度はいけると思ったが、1時間かけて望遠鏡を設置したその次の瞬間に曇って来て、結局一枚も撮れないうちに、曇ってしまった。そして、11時まで待ったが、ついに再び星は出なかった。その夜の後も、月は新月になっているというのに、星空は戻ってこず、雪ばかり降ってくる。もうこれでは仕事にならんと、慶ちゃんと話した。それで、一月には、都合がつけば道東に行くことに決めた。道東というのは釧路や根室方面のことで、夏には毎日のように海霧で曇るかわりに、冬になると毎日のように晴れるという。しかも、空は最高であることは間違いないだろう。
 

 しかし、気温は-20℃を下回るだろうから、寒さ対策が問題になる。160JP赤道儀の稼動範囲は-10℃までと、説明書には書かれている。ここが問題なのである。その他人間の防寒は足の防寒をどうしようかと悩む。特に、つま先から足の裏にかけて感覚がなくなる。多分、どんな防寒靴もダメだろうから、カイロを入れようという結論に達した。動いていいというのなら、-20℃くらいどうにでもなるだろうが、-20℃の中、一晩中正座して過ごすなんてことができるのだろうか?不安はあるが、曇って何もできなくなるよりはずっとましであると思うのである。 
 この間、ぼくはなんとあろうことに、光害カットフィルターなるものを手に入れた。このフィルターは水銀灯やナトリウム灯の光だけをカットして星の光を通すというものだ。このフィルターの使用は函館にいる限り、やむをえない選択だと、友人と話した。しかし、このフィルターをもってしても漁り火のメタルハライド光線はカットできない。恐るべき漁り火であることには変わりない。
 


 慶ちゃんはしきりにモンゴル、モンゴルとつぶやいている。そうなのだ、モンゴルに行けば、光害に汚されていない、本来の星空が広がっているのだ。死ぬまでに一度は見たい!なんていうたわごとを言っていては実現されまい。必ずや光害のない星空の下で写した作品を創らねばならない。そう強く思っている。
 

 ■星の話はこれくらいにして、今月の作品。

冬の川。何の変哲もないが、気持ちのいい冬晴れの日の川の流れ。こういう作品は、星なんかと違って、実に気持ちよく撮影できる。しかも、冬になると、晴れることもまれだし、たまに晴れてもお日様の出ている時間は極端に短いから、冬の晴れはすごく貴重な時間。貴重なだけではなくて、本当に気持ちのいい時でもある。だから、こんな時には自然の中をゆっくりと車を走らせながら撮影して行くのは楽しいことだ。
 特に北海道の小さな冬の川は美しくて、夢中になれる。今年最後の北国通信はそんな気持ちのいい冬の川の作品から選んでみました。
 中でも、この作品は作品番号12。ぼくの12枚目の作品。
場所は札幌市郊外にある中山峠近くで写した。今、僕の作品番号はだいたい9万と10万の間くらいだから、ずいぶん昔の作品になります。
 この頃、 ぬけのいい、色バランスのそろった望遠レンズが買えなくて白色には苦労させられました。微妙に色彩の違ったフィルターを組み合わせたりして、色バランスの補正をしていましたが、コントラストの低下やゴーストの発生などで完全にはうまくいきませんでした。だから、この作品もそんな試行錯誤の中で生まれたものではあります。今では、色バランスの優れたレンズもあるにはあるのですが、かなり高価で、なかなか買えるものではなく、お金に都合がつく度に、買い替えて行こうと思うところです。
 

 他にも、色にはずいぶんと苦労させられます。今回お送りした、写真館通信の流れ星の作品をごらん下さい。この作品は11月の作品と同じフィルムから印刷したもので、プリントとは大きく色が違っています。なかでもポストカードでは、輝星の青にじみが強調され、かなりショックでした。どうも、印刷では青にじみが強調される傾向があるようで、なんとかならないのでしょうかねえ?
 このことに関して、別件ですが、気になることがあるので話しておこうと思います。まず、「画像処理してるの?」という質問が僕に対してよくあります。
このことですが、印刷に関する知識のある人はこのような質問はしないのですが、へんにコンピューターをかじっている人に限ってこんなことを言って来ます。
画像処理するということは、フィルムに人工的に手を加えて、フィルムを変化させて、全く違う作品に仕上げることです。しかし、実際のところ印刷所の人たちは、僕の撮影したフィルムにできるだけ近づけようと、努力しているのです。スキャナでよんだままでは、フィルムどおりにはなりません。これにオペレーターが手を加えて、フィルムに近づけて行くのです。これが色校正で、3回も、4回も僕達がO.K.を出すまで繰り返します。
 だから、結局は、コンピューターが発達したからといって、本質は何も変わっていない。最終的にはそれを使う人間の感覚が大事なのです。
そうです。社会は変われども、人は人なのであります。


追伸)
今年も一年間ありがとうございました。今年2001年は雨と雪に悩まされて、話を聞いてみると 農家の人以上に、写真家には受難の年でした。しかし、その雨のせいで、普通ならせかせかと撮影だけをやって、さあ、次。なんて行くところを、少し立ち止まって自分のおかれている状況を観察できたように思います。その意味で、今年は写真作品よりも、多くの詩ができた一年でした。
 でも、冬になってもお目当ての星空は出ず、出るのはため息ばかりです。
また、僕の口癖で「ぼくに、待つという文字はない!」とよく言います。約束の時間が過ぎ、何時間待っても、頭の中でああでもない、こうでもないと、思いを巡らして、時間を過ごすことに自信があるからです。ところが、この僕が星空を待つことに音を上げ始めている。来年は早々に、こちらから動いて星空の下に行ってまいります。美しい星空と出会えることをお祈り下さい。そして、また、みな様、来年も一年、よろしくお願いいたします。来年はいいお話ができるよう、がんばってきます。 本当にありがとうございました。よいお年をお迎え下さい。