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丘のうえの小さな写真館 北国通信の世界
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第85号 北国通信『季節の真っ直中』 2003年5月
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●NO1
今、僕は季節の真っ直中にいる……。光が惜しみなく降り注いで、季節が輝いている。長い間、撮影ができないで苦しんできたけれど、今は長いトンネルを抜けたかのように、晴れ晴れとした気分で撮影に向かうことができる。今まで、撮影ができなかったとき、体からわいてこなかった元気が体全体からわいてきて、季節の真っ直中今までとはうって変わって僕は日に日に元気になっていく。今の目標は一日もシャッターを切らない日をなくすこと。何でもいいから一枚でもいいから写すことを目標にがんばっている。
この撮影への復帰のきっかけになったのは、遊楽部岳近郊へのウド採りだった。遊楽部岳というのは、道南八雲町から今金町にある山で、函館から車で一時間半ほどの距離にあり、非常に奥深い山塊域の中心に君臨している山である。その遊楽部岳を見る林道の一つに、ウドという山菜が無数に生えるところがある。ここに来ると、ほんの少しの時間で持って帰ることができないほどのウドが採れるのだけれど、誰にもこのことは秘密にしている。僕たちは、この秘密の道をウドを採ったり、スミレを見たりしながら気持ちよく散歩した。5月10日のことで、街では暖かかったけれど、この秘密の道を吹いていく風はひんやりと冷たかった。1時間ほど散歩してから遊楽部岳が美しく見ることができるお気に入りの場所まで行き、そこでおにぎりを食べたり、久しぶりに撮影をした。作品を造ると言うよりは、勘を取り戻すことが目標だった。
次の日は大野町の植樹祭だった。1000人の人が集まって、牧場に樹を植えた。いつもは人から樹を守るというのに、その日は人と力を合わせて樹を植えるのだから、不思議な気持ちにさせてくれる。あるお年の方が、僕に樹の植え方を熱心に教えようとしてくれた。そして、弱った体を精一杯使って樹を植える姿を見るだけで、嬉しくてならなかった。みんなで樹を植える連帯感はなんとすばらしいのだろう!この植樹祭が終わってから、僕たちはすぐ側のブナと桜の牧場を撮影した。目が覚めるほど綺麗だった。僕は、飽きずに桜やブナを写して回り、最後に沈みゆく夕日とブナの木を写して、撮影を終えた。帰り道、ヨタカが急降下の練習をしていた。いつもの平和な春の夕闇が迫っていた。
その二日後、今度は七ツ岳に行く。七ツ岳は函館から西方、松前方面、大千軒岳の近くにある。残雪とブナの新緑を撮影したくて出かけたが、林道が崩壊していて林道の終点まではたどり着けなかった。その途上、林道の真ん中に熊の糞が落ちていた。
この山はタケノコ採りで知られる山だけれど、僕は熊が心配でそんな怖いことはできない。いつ行っても、道南の山は言いしれぬ恐怖感がある。
その次の日は噴火湾に釣りに行った。カレイが釣りたかったからだけれど、釣れたのは綺麗なカジカという魚が中心だった。カジカの名はギスカジカという。小型のゴ
ムボートからの釣りだったけれど、あまりに海と太陽が綺麗だったので急いで漕いで帰り、砂浜から太陽を写した。思った以上に綺麗で大変満足だった。撮影を終えて車にカメラをしまおうとしたら、向こうから見知らないおじさんが車で近寄ってきて、今日の太陽綺麗だったなあ!と言う。僕たちは「綺麗でしたよね!」というのがやっとだけれど、僕たち以外にもこの太陽を見ていた人がいると思うと、なんともたまらなく嬉しかった。いい一日だった。 次の日は自分が植えている梨の花が満開だったので写してきた。梨の花は他の果樹の花よりも大柄だけれど、一緒に出る葉っぱの色彩と白く大きな花の取り合わせが何とも美しい。梨の木の後ろを白樺並木にしているので、白樺の新緑を背景にして写した。
次の日は江差にある笹山という山に、サクラソウを写しに行く予定だったけれど、途中から雨が降ってきたので、予定を変更して途上のブナの森を撮影した。今月の作品の一つはこの日撮影したブナの森の道から。函館から江差に向かって抜ける途上、厚沢部(あっさぶ)の森の中。
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七ツ岳の林道で見つけたクマの糞。道南はクマが多くて、林道のほとんどに入れなくなってきた。 |
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釣果。一番下の魚は40cmほどの大きさのアブラコ。
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釣りの後の夕日。綺麗だった。
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●NO2
雨がしとしと降っていた。ただでさえ蛍光緑のブナの葉がよりいっそう鮮やかに光り輝いている。しかし、この作品を写していると、どこからともなくクマのにおいが漂ってくる。もうせっかく綺麗なのに!クマがこの近くにいる。落ち着いて撮影できない。車からあまり離れないようにして、慶ちゃんに回りに気を配っ
てもらいながらこれを写した。
この次の日、5月17日。再び遊楽部岳の麓に行った。ウド採りに行ってから、1週間が経っていた。まだ、遊楽部の森は緑一色に変わっておらず、カエデなどの花が咲き残り、色とりどりだった。あまり晴れはしなかったが予想通り遊楽部は綺麗だった。ブナの森越しに遊楽部岳を写していると、またクマの匂いが漂ってきた。ひっきりなしに車が通る道道上のことだ。どうも、クマがこの道を通りたがっている。僕たちはそう思ったので、撮影を速やかに切り上げて、次に進んだ。次のところではクマの気配はなかった。それで、谷底に降りていって、エゾノリュウキンカを撮影した。今まで、僕はエゾノリュウキンカを撮影する機会がないままだったので、初めて写すエゾノリュウキンカはとても綺麗に見えた。今月の2枚目は初めて写したエゾノリュウキンカの作品。こんもりとした姿が何とも可愛らしかった。
次の日は、同じ厚沢部にあるレクの森というところまで来た。レクの森には秋しか来たことがなかったので楽しみだった。ここでは、歩きながらフデリンドウ、チゴユリ、イチリンソウなどの小さな花々を写して歩いた。途上に幾本かの木道があり、そのうちの一本が白い花々で縁取られていた。あまりに綺麗だった。天国へ続く道のようだった。言葉にも、写真にもできないような清浄な風景に出会うことがあるが、ここもそのうちの一つである。
その後、近くの大沼や太陽を来る日も来る日も写していた。太陽は夏至近くの太陽の軌跡を写したくて何度も挑戦中であるが、どうしても最後まで出ていてくれない。肉眼で見ている限り、雲の厚さは最後まで同じようなのに、途中からす〜っと薄くなって消えていく。それと、太陽の軌跡を写し始めた当初、露出のことが頭に入っていなかった。撮影方法としてはカメラを固定して5分ごとにシャッターを切って、フィルムを巻き上げずに1枚のフィルムに何度も露出していく。そうすると5分ごとの太陽の軌跡を1枚のフィルムに写すことができる。しかし、太陽本体と風景とがそんなに明るさに違いがない場合、5分ごとでは露出過度になってしまうことに気が付いた。ちなみに太陽の視直径は0.5度だから、太陽は約2分で自分の直径分動くことになる。つまり、2分ごとに露出してやると太陽が接するように軌跡を描いていく。しかし、このようにして2分ごとにシャッターを切っていくと、1時間に30枚も露出することになるから、そのうちに風景の方が露出オーバーになるときが来る。そんなことが起こるとは思いもよらなかった。だからあらかじめその日の太陽の明るさを計って置いてから、撮影にはいることにした。もちろん夕日になって暗くなっていくことを想定して……。月の軌跡を写すことはそんなに大変なことではないので、太陽くらい簡単だろう!と思っていたのが甘かった。うまく写すことができたらお見せしますので、もうしばらくお待ち下さい。夏至、春分、冬至の太陽の軌跡をを写すのが目的。さてさて、どうなりますやら。
24日、ついに念願の狩場山に行く。朝3時出発。狩場(かりば)は函館から170kmの地点、島牧村にある。狩場には北海道一の滝、賀老の滝がある。16日に賀老の滝への道から人が滑落して死亡して以来閉鎖されていたので、開放されるのを待ってのことだった。16日は確かに雨が降っていたので、ふとした拍子に足を滑らしてしまったのだろう。当日は晴れていたが、細心の注意を払って、賀老の滝に向かった。賀老の滝を正面から見るのは何と10年ぶりくらいになる。予想を遙かに超えた迫力だった。ものすごい水量で、すごい迫力だった。滝が見えるところまでは少し歩かなくてはいけないけれど、一度は見て損はないと思う。多分、日本一の迫力は間違いないだろう。その日は忙しかった。写すものがあまりにたくさんあって、時間が足りない。12時間ぶっ続けで撮影をして、なんとか予定通り写し終えることができた。中でも森の中に残雪が残り、広場のようになったところにあった一本美しいダケカンバが印象的だった。僕が今まで見てきたどんなダケカンバよりも綺麗だった。白樺と幹は似ているのだけれど、葉の緑は白樺よりも濃くて白を混ぜたようなパステル調の色をして光り輝いていた。
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森の奥の水たまりでおたまを見つけた。今年の春初めての出会いだった。この側に樹齢数百年の桂の木がある、そんな森の奥の奥で、道ばたにはイチリンソウやニリンソウが可憐に咲いている。 |
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●NO3
夕方5時。撮影を終えて、ラーメンを食べて腹を満たした。森には夕方の気配が漂っていた。余談だけれど、ラーメンを食べながら不注意にもブヨよけのハッカ油を目に入れてしまった。ハッカ油は体にシュシュっとふっておくと、ブヨよけにはとても効果的なのだけれど、目に入れると、まるで失明でもしたかのような痛みが長時間続く。その時も大変だった。この時期の撮影で何がなくてもハッカ油がないと撮影にならない。ブヨは黒いものに寄ってくる性質があるらしく、カメラや頭を中心に無数に群れ飛び始める。もちろんレンズの前にも何匹も飛ぶから飛んでいるブヨが写ってしまうのである。だから、僕はブヨよけにレンズのフードにハッカ油を時々付けながら撮影をする。
ブヨの他にこの時期ダニが要注意だ。有〜ぽんなどはもう今年4度もダニに食いつかれている。不注意にも地面に転んだりしたら大変。その瞬間にダニがぱっとついているだろう。だから僕は有〜ぽんに「走るな、飛ぶな転ぶな」と呪文のように言い聞かせている。それでも、ダニは吸い付いてくる。お風呂にはいるとき、その夜のうちにチエックすれば、問題は大きくはならない。特に、笹を漕ぐときにはくれぐれも注意されたし。
そんなこんなで、過ぎていく5月。北国通信を無事に出し終えたら、大急ぎで東北に10日ほど行ってくる予定です。八甲田、奥入瀬、藤駒湿原、八幡平、鳥海山、栗駒山、平庭高原などを回ってきます。素敵な風景に出会えることを祈り、高いフェリーに乗っていざ東北です!
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【5月の丘のうえの小さな写真館】
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4月の号では八重桜がまだ蕾の頃の写真館を載せました。今月は八重桜満開の丘のうえの小さな写真館です。この八重桜の咲く頃の写真館周辺は非常に鮮やかで、目もくらむほど美しいところになります。見た目にも綺麗なんですが、鳥たちの気配でにぎやかで平和にもなります。やっぱり今年も3つがいが営巣しています。雀の雛はかえったみたいです。日増しに巣箱からの声が大きくなっています。あと、黒ツグミとエゾセンニュウのつがいもいます。毎朝2階の寝室のカーテンを開けるたびに、おはようさんです。実は、玄関側にも八重桜があって、こちらのよりずっと大きい桜です。先日、カンガルー便のお兄さんが来たので、例の桜の寿命のお話をしました。すると、彼はトラックの屋根が桜の枝に当たらないように、バックで帰っていきました。いい人もいるものです。 |
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【遊楽部山麓の春の風景】
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先月は春の緑の話をしました。早速春の緑の話の続きのために、遊楽部山麓の春の様子を写してきました。どうですか?もう、これは緑の違いというよりも、多種多様な色彩が折り混ざっていて、春なのか秋なのかわからないほどです。綺麗ですね〜。実は、この写真が長いスランプから脱出した初めて写した作品です。
そして、もう少し季節が進むと、全体が緑一色に変わっていく訳です。そして、樹種によって微妙に葉の色や葉の付き方、形が違って見える訳ですね。まあ、色よりも葉の形や大きさで区別した方がわかりやすいのでしょうがね。慣れてくると、樹の雰囲気で種が分かってくるから不思議なものです。 |
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