館 最新単品ポストカードの世界
2011年 モノクロームポストカード
1枚…100円(税込)
思い出の色、モノクローム

昨年度までは白黒写真の印画紙を紙に貼って仕上げる
白黒写真ポストカードの制作をしてきましたが、
今年はそれにいったん終止符を打ち、
モノクロームの印刷ポストカードを制作する方向へ進路をとりました。
 
白黒バライタ印画紙のもつ格調の高い風合いも捨てがたいものですが、
ポストカードの性格や自分の心の方向を考えた上で、
モノクロームの印刷ポストカードへ進路を変更する決心をつけました。

白黒写真を再開したとき、僕は白黒写真に対し、
カラーとは全く別の方向性ー諧調豊かで、緻密で、シャープな表現により
白黒に写真的な不思議な魅力を付け加え、
硬派な日本の自然観を制作する方向に歩み出ました。
言い換えると、ハッセルブラッドなどの大きめのネガフィルムで撮って、
バライタ印画紙でプリントする白黒を一筋に追求していく方向性です。


しかし、そうしたハッセルブラッドによる緻密な描写は
日本の情感のようなおとなしく静寂の表現にはピッタリ来るのですが、
北海道のような自然と言うよりは「野性的」な荒々しさの表現や
放浪や旅を意識したような作品づくりにはその完璧な描写が
かえってふさわしくないと思うことがたびたびあったのです。
 
こうして僕は小さな銀粒子がぎゅ〜っと詰まったような緻密で滑らかな表現ではなく、
むしろ銀粒子の大きさとアキュータンス(エッジの鋭さ)を制御することで、
かえって完璧さを求めない方向に進み、自然の荒々しさを表現していこうとしました。
そしてちょうどこうした変化に歩調をとるように
撮影機材はハッセルブラッドからライカへと変化していき、
ライカという小型カメラからできてくる
小型のネガティブにより銀粒子を制御するようになっていきました.



しばらくしてこうした方向性は
カラーと同じくメルヘンの表現にもむけられるようになっていきました。
メルヘンが心のどこかで記憶にとどめている思い出という聖域だとしたら、
その思い出の色はカラーでもなく白黒でもないモノクロームなのだと思うようになったわけです。
そう、メルヘンを表現できるのは、カラーでもなく白黒ではなく、モノクロームなのだ!
ということに気づいたのでした。
ハッセルブラッドで緻密な表現に終始し、白黒一筋で頑固に押し通していくことも
それはそれで素晴らしいことなのかも知れませんが、
僕はそうした正道からはずれ、この心の思い出の表現、
すなわちメルヘンの表現のためにモノクロームの方向へと歩み始めました。

モノクローム表現の方法

白黒写真の場合、その印画紙を処理してモノクロームへ調色する方法は
古くから行われてきました。
しかし、そうした方法を僕はあまりに煩雑な方法として嫌い、
白黒ネガをカラー製版することで、モノクロームにする方法を選びました。

もし、この方法をとらないで旧来の印画紙の調色という方法を選んだとしたら、
きっとその途中でやめてしまったことでしょう。
でも、この白黒ネガからの製版という方法もそう簡単ではありませんでした。
白黒ネガからの製版はカラーフィルムの製版よりも
ずっとずっと難しいカラーマネージメントが必要で、
印刷本番の時まで一時も気を許せない微妙なさじ加減が求められました。

白黒ネガからの製版を研究しているとき、
途中であきらめて、来年に回してしまおう、と何度も思いました。
しかし、僕にはその時、3週間のたっぷりした研究時間が与えられていたために
最後まであきらめずに制作を続けることができ、
ついにモノクロ印刷ポストカード製版の技術を身につけることができたのでした。
しかし最後の印刷まで全く気が許せない微妙なやりとりが続きましたが、
印刷途中からは確かな手応えがあり、回りの反応の良さもありましたので
「成功」が間近に迫っていることがよくわかりました。

モノクロ印刷ポストカードの今後の方向性 

僕は写真の究極的な目標は「空気を撮ること」にあると思っています。 
その場の空気が心に響きあい、心の色に重なり合ったりして
一枚の写真になる。そしてそれがいくつも集まって別の色や雰囲気を持つようになる。
こうして、人の心の中にある思い出がその人の人格を醸し出すのと同様に、
別々の一枚の写真が集まることで、空気が人格を持つようになると思うわけです。
 
だから今後はこうした空気の人格を、
心の思い出の色であるモノクロームで表現してみたいと思うようになったのです。
 言い換えれば、モノクロームとは思い出の色であり、
その色がどんな人格を空気に与えていくのか、
そうした未知のことを考え想像するのですが、
それは本当に楽しい空想の時間です。
まさに、子供がどんな大人になっていくのかを、
楽しみに見ているかのようなそんな気持ちです。 

2010年11月5日完成! どしどし下さい!待っております。