の世界
44 冬の旅 199912
冬の旅

-北海道 足寄町-

 2000年おめでとうございます!2000年という記念すべき時間の訪れを共に共有することができる喜びをかみしめています。

 そして,この今を共に生き,共に感じることができる幸せに感謝いたします。さあ,みなさん!この2000年という一年を共に幸せな時間にしていきましょう。

 さて,この記念すべき年を迎える初めての北国通信,ずいぶんと迷いましたがぼくが得意とする冬の川の作品集の中から少し渋い作品ですがこの作品を選ぶことにしました。
 この作品は1995年12月29日の撮影で、場所は北海道の足寄(あしょろ)から阿寒湖へ向かう途上で出会った風景で、ここは十勝から阿寒に向かうとき必ずと言っていいほど通る,あの大きくて有名なラワン蕗(らわんぶき)でその名を知られるところです。

 また,この辺は阿寒国立公園のちょうど入り口の手前付近にあたり,普段は何の変哲もないところで,ぼくたちでもこの辺を走っているとついつい車のスピ−ドを上げて通り過ぎてしまうようなところです。
 しかし,この時だけは違っていて,足寄川が半分凍り,半分溶けて流れているような状態で,その流れと接している凍った部分がエメラルド色に光って見えたり,氷の下が透き通って見えたりしていました。 

 そして,うっすらと降った雪が多種多様な世界の色彩をその下から浮き上がらせながら覆い隠して光り,世界がどこまでも透明になった感じがして,夢中になって写していました。そこにようやく一段落をつけて数キロも行くと阿寒国立公園に入り,そのすぐのところには宝石の湖と呼んでいるオンネト−という湖があります。オンネト−にはよく観光バスが来ていますが,観光バスが行くのはその途中までで,湖畔に通じる道をそのまま湖畔沿いに進み,茶店がありますからそれも越え,更に進むと,大きなキャンプ場(雌阿寒岳噴火のため閉鎖中で,巨大な無料駐車場になっています)がありますから,その一番奥に車を止めて,そこから歩くとすぐに静かな湖畔に出ることができます。

 湖畔に向かって右へ右へと歩いていくと対岸へ渡ることができて,湖畔沿いに続いている遊歩道はとっても気持ちが良く,この辺から見るオンネト−はそれはそれは美しいものです。小さな入り江になっているから波風の影響を受けにくく,コバルトブル−の水の色合があたりの静寂に溶け込んで,もう胸にぐっときてしまうんです。そして黒いモミの原生林の手前にわずかに白樺の林がわずかにあって,それがまたとっても清楚で風がすっかりやむと湖面にす〜っと白い影を落とし,これがまたいいんですよ。それで,ぼくたちはこの辺を通るときには必ずここに寄ることにしています。風景やその雰囲気も気に入っているんですがその他に,ここに来ると何かいいことがありそうで,何か予想もしない素敵なことと出会ったりすることができそうでつい来てしまうんですね。また,オンネト−から国道に戻り阿寒湖にむかうその途上すぐのところに白藤の滝という滝があります。この滝も駐車場から歩いて数分ですので是非行かれるといいと思います。白藤の滝というからもっと清楚な滝を想像していったのですがまったくイメ−ジからほど遠く,野性的な豪快な滝でした。滝のすぐ真下まで行くことができるのですが,あんまりにもすごい音で頭がくらくらしてきます。 

 それにしても北海道の滝は豪快で野性的な滝が多いな〜と思います。周りの黒々とした針葉樹の不気味さのせいもあるんでしょうし,人の気配がしないせいもあるんでしょうが,本州の滝の印象とはずいぶん違うようですね。白藤の滝を過ぎるとすぐに阿寒湖があるんですが,阿寒湖の先に次郎湖,太郎湖という湖があり,阿寒湖から流れ出る阿寒川もすごくいいところです。

 国道241号にかかる滝見橋下流が美しいのですが少し野性的すぎるのでここでは紹介程度にしまして,詳しくは次の機会にします。ここを過ぎると,摩周湖,屈斜路湖といった有名な湖がありまして,湖周辺は大変素敵なところがたくさんありますので,これからもこの辺のことは機会あるごとに紹介したいと思います。 

 今回の作品についてですが,このような落ちついた少し地味な作品はいかがですか?
ぼくは明るく美しい作品も好きなのですが,このような落ちついた作品も結構好きなのです。写真を始めた当初,ぼくは秋の木立の色彩が好きで,大雪山麓の森をよく撮っていました。

そのどれもが地味で,しっとりとした落ちついた作品ばかり創っていたわけです。例えばお手元にカタログがありましたら見ていただきたいのですが,単品ポストカ−ドの世界,PN-25
『盛秋の流れ』は実はぼくの記念すべき1の作品で,この作品のような地味な作品ばかり好んでいたのですが,あまり発表することもないままぼくの写真室に眠ったままになっています。
(ちなみにPN-26『秋の湖畔』はさっきお話ししていましたオンネト−の秋の作品です)

また,このような作品を見ていると,また再び旅に出たくなります。目的もなく,ただ何かを求めて人生の中をさまようような旅に出たくなるのです。なにかこう,漠とした世界をひたむきに感じていたいという衝動とでも言いましょうか,また,自分を広い世界の中において普段いるようないないような自分との対話をしたくなるのです。そして,この作品にあるような北国の冬の見せる灰色の色彩の世界は自分自身と深く対話するには絶好の時空間であるように思えるのです。

 
 次に,冬の北海道の旅について,少し現実的なお話をします。まず,冬の道は路面が凍りますから,スリップに要注意です。気温が低いと雪が降ってそれが固まって,氷になってそれでスリップするわけなのですが,逆にこうなってしまうと,雪がたくさんあった方が安心できるのです。
 冬になって雪がない道を走るのが最も恐いことになります。雪があると守られているという感覚がありまして,ほっとするのです。道の両側に雪が積もっていると,たとえ滑っていっても,雪の中に突き刺さって止まるので,安心できるんですね。

 先日など札幌に向かって夜,函館を出たのですが,その途上何台も何台も道の下に落ちてるんですね。雪がないから滑ってしまうとそのまま道の下に落ちてしまうのです。ひどいのは,カ−ブなどで滑っていってしまうだけじゃなくて,まっすぐな道をまっすぐ走っていられなくなるということです。
 
ぼくなどはひどく臆病ですから,恐る恐る走っているんですが(しかも安定するはずの4WD)それでもまっすぐ走れなくなって,道路の外に落ちそうになるんですよ。そうかと思うとやっぱり下に落ちてもがいてる車があったりしてね。

 その他では最近トラック輸送が増えていますが,冬の夜恐いのがこのトラックです。夏と変わらない速さで彼らは走っているので,道が雪で狭くなっているから,トラックとスレ違う度にスピ−ドを落として端に寄らないといけません。

 タイヤがスタットレスに変わってからというもの,雪のない冬の北海道を車で安全に走るのは難しくなりました。「克雪」という言葉があります。つまり冬や雪を克服するという言葉ですが,雪のない神戸から10数年前に札幌に移り住んだぼくにとって,これほど困難なことはありませんでした。
 最初に乗った車が後輪駆動(4本のタイヤのうち後ろ二本だけ動く車)だったものですから,初雪の時に大学から家に帰れなかったこともありましたし,富良野に着いて20分,緩やかな登りカ−ブのところでタイヤが空回りして前にも後ろにも動けなくなったこともありました。悔しかったですね。人が普通に歩けるようなところで後輪駆動車は動かなくなってしまうんですね。それ以来4WDの車がほしくてほしくて,しょうがなかったのですが,お金がなくて手が出ませんでしたね。

 
 次に,ぼくが理想とする北国の冬の過ごし方について,ム−ミンのお話『ム−ミン谷の11月』の一節にありますので少し引用してみますね。

『秋のひとときは,精一杯冬じたくのたくわえをして,安心なところにしまいこむときなのです。自分の持ち物をできるだけ身近にぴったりと引き寄せるのはなんと楽しいことでしょう。自分のぬくもりや,自分の考えをまとめて,心の奥深くに掘り下げた穴にたくわえるのです。その安心な穴に大切なものや,尊いものや,自分自身までをそっとしまっておくのです』

 このム−ミンの一節にあるように冬,深い雪に守られた家の奥の部屋で,自分のお気に入りの世界をこしらえて,そこで暖炉に暖められながらゆったりと時間を過ごすようなことがいつの頃からかぼくの夢となりました。そして,ぼくは今,この夢に一歩一歩近づいていこうとしているるのです。 
 

 今年,みなさんのおかげで煙突のスト−ブを買うことができました。今もぼくの部屋の中で暖かい炎を出してしっかり燃えています。今,家の外の気温は氷点下8℃です。 この暖かい炎はこのぼくたちのことを忘れることなく応援してくれた全国のやさしい方々の心の炎以外ではありません。先月,2000年カレンダ−と同時にぼくたちは新しいカタログを全国に向けて送らせてもらいました。その結果,無視されるというようなこともなく,それどころか,たいへんよかったよ!と言っていただけることが多く,心暖まる思いがしました。そしてそのおかげで,1999年暮れ画期的な変貌,つまり煙突のスト−ブを買うことができたのです。これはぼくが北海道に来て以来,10数年来の悲願でありまして,この煙突スト−ブの圧倒的なぬくもりを感じながら,人と人の心のつながりのありがたさをかみしめております。本当にありがとうございました。

 
 丘のうえの小さな写真館の世界をカタログにして発表することがぼくたちの長年の夢だったのですが,この小さなカタログこそ,まさにその第一歩でした。誰にも受け入れられなかったらどうしようと,不安に駆られながらの発送でした。偶然にもクリスマス前に重なり,予想以上にグリ−ティングカ−ドが人気で,中でもクリスマスの雰囲気のものが受け入れられました。クリスマスというと世界中のクリスマスを撮影することもぼくの夢のひとつなので,もっと素敵な作品を今度のカタログには載せていきたいと思いました。