の世界
55 晩秋の谷 200011
晩秋の谷

-北海道 今金町 見市川-

 この作品は今年の11月8日に撮影したもので、場所は北海道南部の街、八雲町から日本海側に抜ける雲石峠を少し日本海側に下った見市川の谷での撮影です。

 谷深くの川沿いに、わずかにヤナギの紅葉した葉が残るだけとなり、もうすっかり他の樹木は葉を落とし、晩秋の気配が山深い谷に漂います。幾重にも重なって続いていく山容の白いかすみは霧ではなく、雪の降る様子で、わずかな高度の差と地形の違いによって、撮影している場所では雪は降っていません。この頃はほんの100mの違いで、雨と雪の境界ができていて、驚かされることがあります。谷底を流れる川は見市川で、今まさにサケが遡上し、湧き水のある砂利底に産卵しているまさにその時で、川に近づき偏向眼鏡で川をのぞくと、その様子が見られます。

 サケはこの谷のどこかで産卵し、そして二人静かに寄り添い死んでいくのです。
そして、その代わり2月頃、二人のサケの赤ちゃんが誕生し、北太平洋に向かって長い旅に出発していきます。長い長い旅になります。

 さて、この雲石峠を越えるのは国道277号線で、太平洋側の噴火湾と日本海とをわずか30kmで結び、遊楽部岳の南部を通っています。北海道の地図を見てもらうとよくわかると思うのですが、この付近が日本海と太平洋とが一番近いところになっています。
 つまり陸の部分が一番くびれているところなのですね。また、太平洋と書きましたが、ここでの太平洋は大きな内湾になっていて正式には内浦湾というのですが、一般にそれは
噴火湾と呼ばれます。

 どうして噴火湾と呼ぶかというとペリ−が来航したときに駒ヶ岳と有珠山が同時に噴火していたらしく、噴火湾の左右で同時に噴火の煙が上がっていたからで、それを見たペリ−が噴火湾だと呼んだそうです。

よく考えてみれば、確かにこの湾は火山に囲まれているようですね。ぼくが知ってるだけでも、駒ヶ岳に有珠山に恵山ですか。そのせいか、やたらと北海道南は温泉が多いですね。掘れば温泉が出ると言われるわけです。
 ぼくもこれが当たり前になっていたから、よくわからなくなっていましたが、確かに温泉が多いですね。


 少し、温泉についてお話ししましょう。まず、恵山近郊ですね。ここには知ってるだけで5つあります。まず、恵山温泉旅館がおすすめ。ここはかなりの酸性の湯で、まるで塩酸につかっているかのように感じます。もちろん石鹸は泡立ちません。
 次に水無海浜温泉。これは岩場にあって、引き潮のときに温かくて入ることができます。女の人は無理ですが、水着持参ならいいです。あと一カ所は無料のところで、残りの二つは銭湯くらいの料金かな。

次に、南茅部町というところにある、大船温泉下の湯。ここは学生時代にみんなでよく来たところです。学生時代はひとり百円で、今は150円らしい。

 季節によって温度が変わり、男女別で、水道はない。友人4人で車で函館から来ても市内の銭湯に行くよりも安いということで、よく来ました。さっきの恵山のただ風呂(品のない言い方だね)にもみんなでよく行きました。ぼくたちの学生時代の娯楽ってよく考えたら温泉に行くことだったんですね。
 湯船につかって難しい話しをしたり、将来の話しをしてたんですね。都会の学生諸子とは少々違った学生時代の過ごし方かもしれません。

 さて、大船温泉には100円の下の湯に対して、豪華な上ノ湯が最近出来た。料金は銭湯並で、観光地のような法外の料金を取るところは道南にはない。上ノ湯も豪華だけど、湯はエメラルド色でとってもきれい。水道が出るので髪の毛なんかも洗えるから魅力的。貧乏学生には下の湯、一般には上ノ湯がいい。でも、一般でも今日はつかるぞ!とはりきっていくときは下の湯がいい。
 

 次に函館市内にもよりどりの温泉がある。数えただけでも8個以上ある。今日の気分で温泉選び方ができる。
ぬるぬるしたお湯の露天風呂は陣川温泉、最高のお湯は桔梗温泉、かわったところでは函館市谷地頭町という観光で知られる元町地区のすぐ側に市営の温泉がある。湯は金茶色。最近新しくなりました。谷地頭町自体の雰囲気もとてもいいです。
 観光で元町に来る人が多いんですが、せっかく元町に来ておきながら、谷地頭町や青柳町に来ないなんてもったいないとぼくたちは思うわけです。函館山をとりまく少し東側にあるのですが、この谷地頭や西側の入船町などを元町に含めて、函館の魅力がめいっぱい感じられると思います。教会や夜景、坂道が函館のイメ−ジなのですが、津軽海峡港、造船の下請けの町工場、水産物の加工場、日本の寺院、それに潮風に吹かれる函館山ハイキング。そして、函館近郊の大沼や牧場など。洋風から和風に揺らぐ、小さな宝石箱の中味を感じていってほしいとぼくは拙に願うのです。いつか、「函館の風の中で」という御本を出版させてもらうときには同時に地図とか風を感じるためのガイドブックも同時に出して、みんなに函館の深さをわかってもらいたいです。今のままではぼくたちだけが独り占めしているようで、もったいないというのが正直なところです。やはり美しいこと、楽しいこと、すばらしいことはみんなで感じていたいですね。素敵な共感がみんなの心の中に芽生えていくと幸せです。
 

 函館のことが出たついでに、今話題の観覧車と水族館のことについて話します。
先日ぼくはさっきの谷地頭にある函館公園に行ってきました。ここには子供の国という遊園地があってぼくはその素朴さにびっくりしました。8人乗りの観覧車がありました。地上10m位の大きさです。日曜だと言うのに人はあんまりいません。わずかに人の良さそうなおじさんが孫さんを飛行機に乗せてあげたりしているくらいです。なんとも小さくてほのぼのした光景です。ベンチはプラスチック製のどこにでもあるものでしたが、ペンキでかわいらしく楽しい絵が描かれています。小さいから隅々まで、気が届くのでしょう。
 こじんまりとよくまとまった遊園地です。慶ちゃんたち今ではいい女性になった人たちが小さい頃、お父さんお母さんにつれてきてもらって、遊んだ遊園地です。子供のころ大きく見えたものがいま見るととても小さく見えて、不思議な気持ちになるそんな遊園地です。函館はこんな不思議な気持ちにさせてくれるものが似合う街です。函館は長い時間をかけてできた砂州の上に広がった街です。砂州だから、また長い時間をかけてなくなるときが来るかもしれません。大地は多かれ少なかれ、いつか消失する運命を持っているのかもしれませんが、函館の運命はまるで砂山が崩れて行くような、女性の美しさが失われていくような、もろさ、はかなさを持っています。しかし、そう思うからこそ函館を想うとき、人はそこにともる灯を見つめながら涙を流すのでしょう。ほんのつかの間の美しさけなげさが函館にはあります。ぼくはそのような函館だからこそ函館を愛しています。そこには小さくてかわいい宝石がいっぱい散りばめられているのですね。背伸びしない自分にちょうどいい位の大きさの街でありたいし、函館にはそれが似合っていると思います。そこに来て、105mの観覧車は場違いのように思えます。少々細かいと思いますが少し“背伸び”の部分に触れます。お金の話しになりますがいやな思いがしたらごめんなさい。
 

 まず、観覧車と水族館で80億円。図書館に30億円。函館病院移転に50億円。函館未来大学建設に150億円。駅前の再開発に数十億円……、というように途方もないお金をいっぺんに使おうとしているわけです。どこの家にほしいものを全部買ってしまううちがあるのでしょうか?

 しかもその金額が信じられない高額なものになっています。もう少し詳しくいうとこれら全額借り入れで、水族館の80億まではだれも貸してくれないから、5000万円出して、残りの79.5億円は国土という企業に出してもらうつもりでいるようです。こういう仕組みを第3セクタ−というのですが、市役所としては5000万で80億の仕事をしたという実績になるそうで、いわば“虫のいい”お話になります。でも、こうしてしまうと水族館という名前の施設はできても、水族館はできないというのが一般的です。水族館は函館の人たちの20年来の悲願なのですが、お金のない函館市の人たちの長年の悲願につけ込まれて、大きな水族館と言う名前の施設ができるようです。函館の人たち、ぼくも含めて、自分たちや子供たちの学習勉強の場として水族館を望んでいるのです。それが基本構想を呼んでみると、遊園地にしかならないと書かれています。“一般の人や子供たちをなめてる!”“ぼくたち一般の人間はそんなに馬鹿じゃない!”と久々にぼくも怒っています。海や湖、川、そして魚の世界には自分たちの知らないこんなにたくさんのことがあるんだ!ということが学べる水族館ならいいのですが、シロクマやペンギン、いるかの芸、熱帯魚しかいない水族館ができそうです。ぼくは大学時代、水産学を専攻し、特に異体類(カレイ類)の生態、サケ科魚類の性成熟に興味があったという経緯もあって、魚には特別の想いがあります。こんな魚のことを日々聞かされている慶ちゃん「こんなことに興味を持つ人っているんだね」と言います。そうなんです。人は何かしら、専門家であるわけです。ぼくは昔、カレイだったんじゃないかなあ?魚を飼うのは楽しいことです。動物や人間の子供たちはかわいいです。しかし、魚の子供たちもかわいいです。特にカレイの子供はかわいいです。見てるといつまでも飽きない。
 
 

さっき性成熟なんて冷たい言い方をしたけど、要するにお母さん魚のお腹が大きくなって、そこから無数の赤ちゃんが産まれてくることですね。すごくかわいいんですよ!ぼくは小さい頃からこの命が生まれてくることに興味があって、魚好きと相まってお魚のお母さんの勉強をしていたわけです。さらに、旅が好き、海が好き、船が好き、北国が好き……なことからサケを勉強していました。でも、みなさんこういうこと話してるとなんて“マニアな”と思うでしょ?でも、そんなことはないんですよ。ひと目カレイの赤ちゃん見たら考え変わる。ただ実物見たことないでしょ?水族館なんかの役割ってこういうところにあるような気がするんです。ミジンコの赤ちゃん見たことありますか?これまたかわいいんです。もし、こんな感じでちょっとぼくが知っていることだけでも水族館で見ることができたら、あちこちで「かわいい!」って歓声が上がるのになあと思います。イルカはかわいいけど、イルカしかかわいいものがいないわけじゃないのです。もう一言だけ言いますと、例えばメダカなんかを子供たちが飼う水槽なんか用意してあげれたらいいのに。メダカの性周期は短くて、お日様を始めとした外部の光の影響を受けます。こんなことをおおまじめで、大学の4年になって初めてやってるんです。それまで、受験勉強でやってこないんです。でも、結構こういうのは面白い。意外と何も知らない子供たちにメダカの産卵にお日様の光がどんな影響を与えてるか調べてごらん、なんていうと大まじめに考えたり、やったりすると思うんです。そこで、大学くらいになったら、どうしてメダカはお日様の光の影響を受けているのかという勉強や街路灯などがメダカなどの生息にどんな影響を及ぼすのかという勉強に発展させていけるのだと思うのです。


だから今、科学っていうと遠い世界にあるように思えるんだけど、そんなことはなくて知らないだけで身近にありすぎて困ってしまうというのが本当です。自分の1.2才になった子供を見ていても思うのは彼らは今一番科学的なんだということです。なにかとるに足らないものをじっとこれはなんだろうと見てるわけです。生まれて初めて出会う感動に感動してるんですね。ぼくも1.2才の子供も変わらない。世界は知らない感動で満ち満ちてるのですね。というわけで、何とかして素敵な水族館ができたらいいですね。
 

 次に、最近色々なものを買うことができたので、少しそのことについてお話しします。
なかでも、三脚についてです。三脚は風景写真を撮るために最も大事なものです。しかし、日本製ではいまだにいいものが見つかりません。そのため、多くのプロフェッショナルたちはフランス製とアメリカ製と、イタリア製の三脚を使っています。なかでも、フランス製のジッツオという三脚は大変すばらしいものです。しかしぼくはジッツオにはいくつか欠点があるので使っていませんでしたが、最近その欠点が全て改良されて出てきました。一番大きな改良点は地面につく先端が、とんがったステンレスのスパイクになったというところです。日本では、PL法によってこんなとがったものは製造できないから、最近とがったものはなくなってきました。ところがフランス製のジッツオは逆にとがらせてきた。しかもそのスパイクの先にゴムをつけて室内や安全性を重視するときには、このゴムをつけて写してくださいとのこと。「これはすごい」と久しぶりにぼくは感動しました。これで、ジッツオは三脚へのぼくたちの要求をすべて満たしてくれました。地上数cm〜目の高さまで撮れて、なおかつ軽量で、ねじれ強度が完全なものに仕上がっています。最高級のアルミ合金を使ってねじれ強度を確保してるんですね。最近カ−ボン製の三脚が出てきています。カ−ボンというのは炭素繊維のことで古くから釣竿に使われてきています。軽くて、丈夫なものがつくられています。ジッツオのカ−ボン三脚は完ぺきでした。ねじれが全然ないのです。日本製のカ−ボン三脚はぐにゃぐにゃでした。どうして、こんなに違うのかと首をかしげたいほどです。値段もそんなに変わらないのに!
 

 さっそくぼくは大型三脚にアルミ合金のものを、小型三脚にカ−ボン製のものを買いました。小型三脚には自由雲台をつけました。この自由雲台も今までの自由雲台の概念を打ち破っています。始めから自由雲台なんてだめだと慶ちゃんと二人で馬鹿にしていたら、なんとよくできてたわけです。自由雲台の欠点を見事に解決しているのです。ぼくの大型三脚は15年くらい前のものでしたが、この度初めて新しくなります。このおかげで、今まで不便に思っていた撮影(超ロ−アングル)に対応できるし、今まで悩み抜いてきた小型三脚の強度にも満足できるようになります。このほかにも、携帯用のガスこんろを買いました。スウエ−デン製で、1gでも軽くしたいという要望にこたえてくれているし、安全にも配慮してくれていて、火力もものすごいパワ−があります。女性の方ならご存じだと思いますが、家庭で使われるガスこんろですね、あれは万能選手なのですが、効率が悪いんです。それと、家庭用のガスこんろのパワ−に慣れて今回買ったスウエデ−ン製のコンロを使うとびっくりしてしまう。ボ〜〜!!ってものすごい音をたてて、すごい火力を発生します。大きさは片手に乗ってほんの100グラム。それでいて値段も日本製と変わらない。なのに見た目にも美しく、軽く、パワ−もあって、よく考えて造られている。涙が出るくらいすばらしい。こうして、本物に出会うと嬉しくてたまらない。ぼくも本物を創っていかなくてはならないと、世界中のライバルを前にして思う。そして、これらはすべてポストカ−ドやカレンダ−が姿を変えたもので、多くの人が、美しいお金でぼくに買ってくれたものだ。美しいものを創って美しいお金で買ってもらって、また美しいものを買う。そして、また更に美しい世界を創っていく。最近ぼくはそんなお金の流れを想ってにこにこしていることが多いです。