の世界
50 原生花園に咲く 20006
原生花園に咲く

-北海道 斜里町 以久科原生花園-

 この作品は北海道の北東部、いわゆる道東と呼ばれる地域にある知床半島のつけねに延々と続く、以久科原生花園(いくしなげんせいかえん)に咲く花々を写したものです。

 北海道の海岸沿いに点在するこのユリ科の花々やハマナスの咲く花園を「原生花園」と言うのですが、海岸沿いのこうしたお花畑を原生花園と呼ぶのは、少し間違っています。
 
 通常ならこの環境は
「海岸草原」と呼び、湿原の一種とするべきところです。

2000年6月22日に函館から札幌に向かったのですが、その途上長万部を少し過ぎたあたりに続く長大な海岸線沿いの原生花園はちょうど満開で、海岸線はエゾスカシユリの黄色がとても鮮やかでした。
 ハマナスはまだつぼみがほとんどで、もう2〜3日で咲き始めるというところでしょうか。また、函館から札幌にむかう国道5号線沿いの海岸線ではちょうど紫のアヤメが満開で、所々大きな群落が点在していました。アヤメやハマナスは意外に花の時期は長いのですが先に言ったユリ科のエゾカンゾウや作品にあるエゾスカシユリの花の時期はかなり短いので、かなり見る時期が限定されてしまいます。
 しかし、エゾカンゾウなどは比較的全道的に見られるので、この時期全道を旅してみるとどこかでエゾカンゾウの群落に出会えるはずです。
 エゾカンゾウの群落で、ぼくが今まで見た一番大きな群落は、十勝の太平洋岸、豊頃町にある
勇洞沼のもので、見応えがあります。勇洞沼はすぐ後ろが海で、波がざぶ〜んっていってるのに目の前には静かな沼があるって感じのところで、夏のこの時期必ずと言っていいほど海霧が出ていて、沼も霧に包まれていてとても幻想的です。
 幻想的というよりは、北方の寂寥感をひしひし感じるのもこの季節で、真冬のマイナス数十度の世界よりもいっそうその感が強いです。
 近くには
歴舟川という美しい川があったりこのあたりの夏の旅は絶対おすすめです。車で道路を走っているだけでも嬉しくなってきます。
 最近道南から行く場合、襟裳岬を経由せず日高山脈を貫く道やトンネルが開通したので、少し早く到達することができるようになりました。しかし、このトンネル近くの風景は実に単調でつまんないので、余裕があれば襟裳岬をまわるのがいいかもしれませんね。
 それから地図などにはよく原生花園ここって書いてあるでしょ?これを信じて学生時代、8月の夏休みに行ったわけですよ。ところが花なんてちらほらしかなくて、がっかりさせられるわけですね。そうなんです。
原生花園が一番鮮やかになるのは6月下旬頃なんですね。
 そんなの知らないから、8月に行くんですが「花咲いてないね〜」って帰って来るんです。花園が輝くのも一瞬なんですね。また気をつけないといけないのが、ここから入っては行けませんのロ−プですね。この話しはここだけのことにしておいてください。うるさい人がいるから。

 ロ−プを張って原生花園の中に人を入れないのはいいんだけど、そこからだと花が全く見えなかったりするんですね。この作品にある以久科原生花園もそうで、花の時期に行っても花がないなんてことになります。この作品などは砂浜を延々と歩いてず〜と遠くまで行ってるんですね。するとやっとこさ、こんな群落に出会えるってことになります。

 誰も入らないのはいいんですけど、放っておくと回りの雑草に原生花園の花々はとり殺されてしまいます。今の北海道の現状では必然的な自然界の掟ですね。
 こんなに大きな花をつけるユリ科の花などは花を咲かせるのにとても体力を使うから必要最低限の小さな花しかつけない雑草に負けてしまうんですね。これは園芸の花々と同じです。
 
 その昔、ひつじや馬を放牧して、
馬や羊が嫌って、食べ残したのが、今の原生花園に咲き誇る花たちなんです。
 
もし今のように人も、ひつじも、馬も中には入らなかったら、近い将来、雑草園になることは間違いないんでしょう。
 
ただ、人の場合には、靴の裏に雑草の種がひっついていたりするので、むやみに入るのはいけません。もし入るなら、原生花園の中の、雑草を食べるか、引き抜くくらいはせめてしたいものです。
 
 それで、ぼくたち人間が力を合わせて自分の庭を造るように雑草をぬいたり野焼きをしたりして花々を守っていくことは大切なことです。
 だから
「人を立ち入らせないから保護になる」と言う考え方は、間違っているんです。
ただし、わけもわからない人がずかずかと入り込んで、せっかくの花たちを踏みちゃんこにしてしまうから、立入禁止という無策な消極的な方法になっていくのです。
 

 まとめてみると、原生花園はかつて北海道の開拓時に培われていった、
「人と馬や羊が創り上げてきた開拓の芸術である」と言えます!