の世界
71 春爛漫 2002年3月
春 爛 漫

-奈良県-
 これからの未来をになってくれるものたちを伴って、写真館にたどり着いたのは2月も末のことだった。
写真館に帰っていきなり僕たちを待っていたのは破裂した水道の蛇口だった。水道の蛇口をばらして、パッキンを交換するなどしてようやく復旧したと思ったら、今度はボイラーが突然止まった。
 ボイラーもばらそうと立ち向かったが、わけもわからずあきらめた。そこで専門の人に来てもらったら「あきらめろ」との指示が下った。しかし、今、ボイラーを新調できる程のゆとりはない。安全装置に気を使いながら、だましだまし使うことに決めた。
 
 我が写真館は万事がこんな調子で、北海道の冬には耐えきれない構造だ。25年も前の設計だから仕方のないところだけれども、ちょっと壊れすぎかなあ?と思うところである。いつ、ポストカードの重さに耐えきれなくなって、壊れる時が来るだろうか?まるで小さな要塞とも言える写真館ではあるが、小さいゆえ、ボロいゆえの戦いが日々あることもまた事実である。
 
 そんな中、ぼくにとっては非常に不得意な分野であるインターネットの接続手続きを進めた。
そして不得意なホームページの作成にも着手している。日々、写真館から一歩も外に出ることなく、コンピューターの前に座りっきりで作業を進めている。今のところ写真作品だけで3500MB以上の重さになり、新設した30000MBのハードディスクを急速に埋めていっている。足りるかなあ?ちょっと不安である。今だあまりいいスキャナを持っていないので、みなさんに見ていただけるほどの、ホームページに仕上げられるか自信はないのですが、がんばろうと思っています。
 あと、どれくらいかかるんだろうなあ?もう季節は春に向ってまっしぐら。秘密の福寿草のお花畑では、福寿草が咲き始めています。福寿草のことを考えるだけで、浮き足立っちゃって、やめたくなるのですが、そうもいきません。もう出航したのです。
 後は、季節に負けないようなスピードで仕上げることですね。がんばります。

そんな缶詰め状態が続き、はかどらない日々が続きはじめると、もう、頭の中ではもう「どこかに行きたい」とか「撮影したい」気持ちで占められるようになります。今は福寿草のこと。そして、今来ている池谷彗星のこと。そして、南の地方ではもうそこまで本格的な春がやって来ているということで、そわそわしています。ああ、春の中に飛び込んで、思いっきり春の日差しを浴びたい。春暖かい空気を思いきっり吸いたい。そんな押さえきれない衝動で占められていきます。
 

 そんな気持ちの反映で、写真館通信にも奈良の桃の花を選んだというのに、北国通信にも本州の早い春の作品を選んでしまいました。
 そして、一枚に決めることができなかったので、今月は二つの作品を見て下さい。
 
 まず一枚は、
長野県三岳村で撮影したモクレン。そして、もう一枚は奈良県西吉野村での撮影です。
三岳村と聞いても、よく分からないと思いますが、三岳村は御岳山の東麓、木曽福島町の西隣にある標高の高い村です。
 
19号線沿いにあるので、比較的行きやすいのですが、案外狭い道しか通じていないので、見落としやすいところかもしれません。しかし、勘と地図を参考に、こまめに国道から奥に入ってみると、美しい日本の風景と出会えることが多いものです。
 
 このモクレンを写したのはさらに狭い奥の路地で、あまりに狭かったので、近くの人が庭に車をとめさせてくれるほど静かな山村です。
 撮影していると、腰の曲がったおばあさんが通りかかります。ぼくが挨拶すると、
「お兄さんでも、おじさんでもない。なんてお呼びしたらいいかねえ?」とぼくに話しかけて来ます。実にのんびりしております。
 

 そして、もう一枚は、写真館通信でも宣伝しました、奈良県西吉野村での撮影。この場所も道の奥にあるのですが、山全体が桜に覆われているほど見事に桜が咲き誇っています。それなのに人の気配がまるでありません。不思議ですね。これは夢なのでしょうか?マンサクの花も、残りツバキも咲いています。こぶしにモクレン、ヒメコブシもすももも……。足元にはすみれが……。 春です春です。大好きな季節です。なんとこの日は4月9日です。北海道とは約一月も違います。時期だけではありません。こんなに美しい桜の山は北海道にはありません。ああ、日本っていいところだなあ、と思えるひとときです。
 

 季節は約一月かけて1000km北上していきます。単純に一日30kmですね。本当にゆっくりした速度ですね。しかし、休むことのない季節の足取りは思った以上に速く感じます。

そして、そんなことを考えていて、日本って緯度にそって細長くて本当によかったなあ!とふと思ったのでした。もし、これが経度にそって細長い国だったら、つまらないなあ、と思います。当たり前のことになると、意外と感謝の気持ちを忘れてしまいそうですね。
 
 この緯度の差に加えて、季節には標高というファクターが加わります。長野県でも標高の高い三岳村で梅が満開の時期、長野県でも、もっと標高の低いところでは桜が満開です。長野県のような標高差の大きいところでは、このような感じで梅と桜を同じ時期に見ることができます。季節の中を行ったり来たりするようで面白い感じですよ。
 
 この標高差やよくお日様のあたるところとあたらないところの季節の差は思った以上にあるものですね。季節の中で暮らしたり、季節の中を旅するというのは不思議なものです。
 
 地球はたった一周4万kmの球です。もし、海がなくて何もない陸地が続いていたら、日本からオーストラリアまで車で走れば4日もあれば着いてしまいます。
4日あれば逆の季節に着いてしまうのです。そう考えると、地球って思った以上に小さいなあ、とぼくは思います。なのに日常生活に戻ってみるとなんて地球は広いのでしょう。そして、目の前に山積みになった仕事の山はなんて高いのでしょう。  がんばるぞ!
 
追伸1)

今年庭で、福寿草の花が3つ咲きました。 
実は以前庭にあった福寿草は全て神戸の父にあげてしまい、庭に福寿草はなかったのです。しかし、
去年、庭の前の空き地から、福寿草らしい葉っぱを見つけ、庭に移植しました。その花が、今年咲いたのです。
 この福寿草のお母さんは以前庭にあって父にあげた福寿草です。父にあげてしまう前、きっと種を飛ばしていたのでしょう。
 あれから7年、かの福寿草の子供の花が咲きました。種から7年かけて花を咲かせるというのは本当なのですね。そんな福寿草のことを思うと、気が遠くなります。あんなに小さいのに、もう七歳なの?すごいなあ!そう思いつつ、嵐の夜は寒いだろうなあ、と福寿草のことを案じたりします。

追伸2)

 今、池谷彗星が来ています。ぼくも一度、双眼鏡と望遠鏡でのぞいただけなんですが、いやあ〜小さいですね。
なにせ百武彗星に、ヘールボップ彗星といった超特大の彗星を見た後だけに感覚狂ってるんですね。
なにせ、5cmの双眼鏡がないと全然見えないんですからねえ。
 よく考えると、当然なんですよね。彗星が肉眼でドカ〜ンって見える方がどうかしてるんです。ぼくが見た時は4度くらいの大きさだったんですが今では10度くらいにも大きくなっていると聞いています。
 4月になると朝方の東空に見えるようになります。早起きできればこっちの方が見やすいかもしれません。
 
 ところで、土星食御覧になりましたか?僕たちはじっと見ていました。月にくらべ土星って小さいですね。   
しかし、格好良かったです


追伸3)今月の作品は2枚ありますので、裏止めはしていません。入れ替えてお楽しみください。