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丘のうえの小さな写真館 北国通信の世界
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第83号 北国通信『冬の負けが決まり、春に軍配が』 2003年3月
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●No 1
2月に引き続き、あわただしく月日は過ぎてもう3月も終わろうとしている。今年の3月は19日頃から暖かい 日が続き、急速に雪解けが進んでいった。僕は最近春の訪れを心待ちにするというよりどちらかというと、冬がもっと続いていてほしいと思うようになっている。それは多分自分の季節感覚より早く、身近から雪が消えてしまうからだと思う。だから、この頃は春よりも冬の肩を持っているような気がする。それで、せめても身の回りの雪が一日でも長く残っていれるように、雪を大切に守っている。
しかし、3月21日の春分の頃には確実に雪は消えていき、春の風が体にとても心地よく、体の調子もずいぶんよくなるのを感じた。しかし、ずいぶんと長く寒さのために縮こもっているのがあたりまえだったので、この春風の快感はあまりに不慣れで、気持ちよすぎてちょっと不気味だった。こんなに春の風って気持ちがいいものなのか?長いこと忘れていた春の快感にとまどいと焦りを感じている。
この春の快感を感じるその少し前、僕たちは丘のうえの小さな写真館の10周年記念写真展を札幌のサンピアザで開いた。当初、宣伝も全くせず、ひっそりと開催する予定だったけれど、どういうわけか多くの人に祝福されて、楽しく充実した写真展になった。
写真展では、丘のうえの小さな写真館の10年を振り返ってその歩みを年譜にして飾ります。
ものすごく長い文章になってしまったのですが、読んでくれる人も大勢いて、足が疲れたとか色々とアンケート結果に反映されていました。今回の写真展では会場の近くに住む大学時代の友人が来てくれて、色々と話が弾んだことが特に印象的でした。友人の名前は小倉君といい、奈良県出身。現在札幌で「穴蔵屋」という名前のデザインの事務所をやっている。彼とは大学時代、空の青さと草原の緑がどうしてあんなによく似合っていて、どうして僕たちはこんなに綺麗と感じるんだろう?とか話し合った。
それで、彼は大学卒業後、学校の先生になろうという気持ちがあったものの「今の自分には子供に教えることが何もない!もっと色々な社会を見てくる」と言って、花屋に就職した。そして資金を貯めてからドイツに行った。「なぜドイツだったの?」って今回聞いてみると、彼いわく「全く言葉の通じないところに行きたかった」という。彼は大学ではロシア語を選択していたのである。そして、彼は結果的に色々な仕事を経て、デザインをしながら細々と暮らしているのだが、数年前までは食べる物を買うこともできず、栄養失調でやせ細っていたという。僕の周りには彼のような人ばかりがいる。自由を選択した結果、お金には困ることになるのだけれど、お互いに理解し合えるところが多い。つき合っていて、話していて、お互いに夢を確かめ合うことができることが男同士とても大事な気がする。これはどんな職業を選んでいたとしても、お金があるなしに関わらず共に近くにも遠くにも夢を感じあえることが友達とか、先輩とか、知人とか言えるような気がする。
もう一人、話すことができた男の友人は「先日東京に出張したとき、外国のピアノを弾く機会に恵まれたが、その時ぞくっとするような快感が全身を襲った!」と話してくれた。
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●No 2
彼は健康に恵まれてはいないけれど、ピアノを弾くことだけはやめないで続け、いつかピアノのために家を建てると言っている。僕もその通りだと思う。家は自分の信念ために建てる物だと思う。他には札幌在住の木の先生が見えた。エリカという花のことで秋田に出向いた帰り寄って下さった。彼からは「現在の1月1日と天体の運行との関係はどうなってるの?」という質問や「どうして8を意味するオクトが10月=オクトーバーになってるの?」という質問をされた。「どうしてこんなことを聞かれるんですか?」と訪ねたら、北海道で生育する樹木種類と気候、季節の関係を一目でわかる分布図をつくりたいんだ!」とのこと。僕は彼のことを木の先生と呼んでいるけれど、彼は大学の研究者ではなくて、民間の樹木関係の会社の専務さんである。もうけることだけを考えずに、余力でとても大切なことを調べていこうとする姿勢にまず心打たれます。この質問の答えは「現在の1月1日と天体との関係は全くない」が正解。
そして、どうして10月がオクトーバーなのかの答えは「ローマ時代初期には一年が3月から始まっていたので2ヶ月の狂いが生じる。」というのがいい加減な答え。でも、大事なことはローマ時代一年が春から始まり、冬の期間暦を造らなかった。というのは興味深い。冬は寒くて戦いも、作物もできず、人が活動できないというのがその理由です。長いこと冬は「何月」とさえ呼んでもらえなかったというわけです。昔のローマって寒かったんですね。それがどうしていつから冬の真ん中頃の特別何の変哲もない日が1月1日になったのでしょう?これは一言で言って政治的な理由からです。季節に無関係な暮らしをする人が暦をつくるようになってきたのです。そのために、その後も、季節感を大事にする人にとっては使いにくい暦なってしまった。それで、僕の木の先生のような人は困ってしまうというわけですね。なぜなら季節感を出すために入れている二十四節気だって北海道にはあてはまりません。つまり、樹木の生育限界や生育状況を示すに当たって、誰にでもわかる目安がほしいのですが、現在の暦では無理なことです。それで、「山下君、春分正月の暦造ってみない?」というお話をいただくことになってしまうのです。そんなこんなしているところに、静内で学校の先生をされている女の先生から連絡が来ました。その中に「もう静内は雪もすっかり解けて、土もぽっかぽかです」というメッセージがありました。そう、土がぽっかぽかという表現はこれからの春の北海道を実にうまく言い表しています。一般に北へ行くほど高度が上がれば上がるほど、春夏秋は収縮します。つまり春の時間がとても短くて、例えば順番に咲いていく花たちが、いっせいに咲き始めます。
例えば、ここ道南の平地でも本州よりはそれが強く感じられ、ほんのちょっとでも高度が上がると何もかもが重複していきます。雪が完全に解けていないのに樹木が新緑し、その下ではカタクリやフキノトウが出て、福寿草が咲いているなど信じられないくらい季節が圧縮されていきます。この高度差や緯度の差はとても面白くて、場所を選んでいくと意外にも長いことその季節を楽しむことができるのです。この二つの差に加えて、陽あたりのことを考えるともっと多様な季節のバリエーションを見ることができます。陽あたりの良し悪しはそれが一年間積み重なって大きな温度差になっていきますし、これが一年ですまないことも原因なのでしょう、同じ緯度、同じ高度でもずいぶん場所によって季節が違うなあ!と実感されます。ただ、この同じ地域の日照の差は風によって気温が混合されるので、理論的に考えるよりは差は小さいはずです。
撮影には困りものの風も大事な働きをしています。海の海流と同じですね。対馬海流がなかったら北海道に人は住むことができないし、北大西洋海流がなかったらノルウエー北部に人は住めなかった。風と海流はとてもよく似ています。
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●No 3
こうして色々と違った季節の訪れがあるわけですが、一般的に北海道ではこれからの季節、休む間もなく花が咲き続けます。そして、これらの花を一つ残らず撮影していこうと思うと、本当にそれに専心しないとだめで、余計な仕事でも入ってこようものならたちまちのうちに季節の中での感が狂ってしまいます。僕の場合まったく去年がそうでした。休む間もなく仕事が入ってきて、肝心の季節の撮影が秋までできないで時は過ぎていきました。いくら10周年といっても、こんな一年をいくら積み重ねてみても何にもなりません。今年こそは、純粋になって自然界の微妙さに身を置かなくてはいけないと、思うことしきりです。
さて、今回の作品はカタクリの作品から2点です。一枚はその芽生えてつぼみが膨らみ始めた頃のもので、もう一枚は美しい花を咲かせたカタクリ2輪です。カタクリなどこのように早春に咲く花を総称して早春のエフェメラルと言いますが、これは何度も言うように「春のはかなきものたち」と訳します。どうしてはかないかというと、樹木の葉が茂り季節が本格化する頃、伸びてきた下草に隠れて全くその姿が見えなくなってしまうからだそうです。そして、このカタクリや福寿草を先頭に本当に次々と花が咲き続けていくわけですが、今からの季節体がいくつあっても足りないし、フィルムが何枚あっても足りないし、心が何個あっても足りないくらい感動感動の日々が続いていきます。このみずみずしい北海道の春を味わってしまったら、もう病みつきになることは間違いがありません。なにせ花だけが一度に咲くわけでなく、虫や鳥や両生類、そして山菜や魚に至るまで、とどまるところを知りません。もっとばらけてきてくれたらどんなに助かることでしょう。ほの暖かな春の野の宵の思い出が今もくすぐったい思い出として、僕の心を満たします。以下に早春のエフェメラルたちをいくつか集めてみました。まだまだいっぱいあるのですが、載せきれないのでこのくらいにします。
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ヒカゲスミレ
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ヒトリシズカ
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ザゼンソウ
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水芭蕉とイチリンソウ
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フキノトウ
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ニリンソウ
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シラネアオイ
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スミレ
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福寿草
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