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丘のうえの小さな写真館 北国通信の世界
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第87号 北国通信『第1回大雪山撮影記』 2003年7月
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●NO1
7月13日から16日までの4日間、3泊4日で大雪山に行って来ましたので、今月はその時の話を中心にしていきます。
大雪山は一つの山ではなく、たくさんの山が集まった総称で、2000m級の広く大きな台地を想像してもらえるとわかりやすいと思います。その台地の広さですが、南北にだいたい50km東西に30kmくらいかなあと思います。この50km×30kmの広い台地全体が大雪山と呼ばれていて、その台地にのっかった膨らみにそれぞれ「何々岳」という名称が付けられているのです。しかし、この広い台地は何といっても2000m以上の高度があって、北海道ではそのくらいの高さになると、森林限界を超えて、直立した針葉樹も生えることはできず、ハイマツやタカネナナカマドが所々に群生するという状態になります。ですから、大雪山にのぼるということは、森林限界の上部に行くことで、見渡す限り樹木によって視界が妨げられることがなく、晴れると四方八方が遙か彼方まで見渡せるという、大変気持ちの良いところになるわけです。おまけに、7月を中心にこの台地上全体が小さくて可愛いお花で埋め尽くされ、7月〜8月という極めて短い期間ですが色々な種類のお花が咲き続けていきます。
こんなに広い世界なんですが、そこには細い登山道が線上に続くのみで、その登山道からはずれることは許されていません。だから大雪山を縦横に歩き回ることはできませんが、登山道という線上を歩いて行くだけでも、十分大雪山の魅力を満喫できると思います。
また、大雪山はその全体が2000m級の高所にあるので、7月だというのに沢沿いを中心に大きな残雪が雪渓となって至る所に残っています。その回りはたいていがお花畑になっていて、雪渓が融けると、そこから順番に色々な花が咲いていきます。そして、雪渓が融けて小さな沢となり、それが小川になり、そしてもう少し大きな川になって、ついには大きな川になっていきます。そして驚くべきことに北海道の大河川である、石狩川、十勝川、天塩川はいずれもこの大雪山に源を発しているのです。そしてその大河川の源頭部はみなお花畑と雪渓によって美しく彩られて、神聖な雰囲気が漂っています。
このような大雪山を僕たちは3泊4日の日程でぐるっと一回りしてきました。僕たちは車で大雪山の山麓まで行くので、どうしても縦走することはできません。必ず車を置いている登山口まで歩いて帰ってこないといけないのです。縦走というのは、登り口に帰ってこないで、そのまま大雪山を横切って下山することです。縦走という手法を使うと、同じところを往復しないですむので、短時間に広い範囲を移動することができて、とても合理的です。しかし、僕たちの場合この縦走ができないので、同じ道を往復しないといけません。これでは縦走する場合の2倍近く時間がかかってしまうことになります。登山を楽しむことが目的の場合は、縦走できないことはとても残念なことなんですが、僕たちのように撮影が目的の場合、少しは救われます。それは、行きと帰りで同じところを通っても天候が違うだけでずいぶん違った写真を撮ることができることと、それから3日も前に通ったところでは、咲いていなかった花が咲いていたり、雪渓の融解が進んでいたりと変化を楽しめるからです。とにかく、大雪山のような高所では6月〜9月に春夏秋の3つの季節をやってしまわないといけないので、この時期とても変化が速いのです。山の上だけ濃厚な時間が急速に流れているように感じます。
今回の撮影の目的は、このような北海道の大河川の源頭部をいくつも持つ大雪山の夏の様子を写すことでしたが、普段の不摂生のたまもので体が重く、色々と困りました。
まず、今の僕の体力の限界として12kg以上の荷物を持って歩けないので、その範囲におさめることにはずいぶん苦労します。まずは、撮影機材の軽量化ですが、35mm判のニコンのみで行くことにします。
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●NO2
35mm判のニコンとレンズ2本のみで行くと、三脚まで入れても何と4kgにおさまります。これをウエストバックに入れてお腹のところに収納しているのです。4日間で一日平均9時間歩いて合計36時間歩くことができたのも、全てこの機材の軽量化のおかげなんですね。一昔前だとどんなに望んでも、どんなにお金があってもできなかったことです。これでずいぶんとフットワークが軽くなって、長距離を歩きながら撮影していくことができるのです。
このように極限まで軽量化した撮影機材を持って、僕たちは13日の早朝旭岳のロープウエーに乗り込みます。ロープウエーは2時間もかけてのぼるところをたったの8分で上げてくれます。もっと安いと助かるのですが、なかなか高価な乗り物です。ロープウエーの終着駅は姿見駅といいます。旭岳の裾野に姿見の池があることから名付けられたのでしょう。姿見の駅を降りてもやはり最初から霧雨です。晴れてくるのを待ちましたが、結局霧雨の中出発です。旭岳の裾のに広がる旭平を進みます。夫婦池を過ぎたあたりで、早速お花畑です。
霧雨の中慶ちゃんに傘をさしてもらいながら撮影していきます。しかし旭平を抜け、裾合分岐にさしかかる頃霧雨はやみ、晴れ間が広がります。裾合分岐を右折して、東に向かうとそこは裾合平です。裾合平は当麻岳、安足間岳と旭岳の裾野を流れるピウケナイ沢のつくる湿地で、チングルマやコザクラの群落がとても美しいところです。ピウケナイ沢はこの裾合平で星ノ川と月ノ川というとてもロマンティックな名前の沢に分かれます。そして、登山道は月ノ川(7/中旬では雪渓のままで流れになっていませんでした)を越え、星ノ川が分かれる雲間川方面へと続いていきます。雲間川は更に二つにその流れを分け、その小さい方の沢を越えるとそろそろ裾合平も終わりですが、この辺りは大変奇麗なお花畑の広がるところで、この時もまだ時期的には早いものの、コザクラがとても可愛く奇麗に沢沿いを飾っていました。この一方の雲間川を越えると、登山道は雲間川の大きな流れの 方に沿って中岳分岐の方へと高度を徐々に上げていきます。その途上、ほとんど源頭近くに温泉がわき、中岳温泉の名前でみんなに親しまれています。中岳温泉手前では僕の大好きな花、エゾノリュキンカが咲き誇るところがあります。僕は長いこ とここのリュウキンカを写すことを想い描いていましたから、無事に写し終えることができたときは大変満足でした。中岳温泉を過ぎると、この日一番のきつい登りで、いっきに中岳分岐まで上がります。中岳分岐はもうお鉢平のへりにあり、今回僕たちはお鉢平を北上、中岳を経て、北鎮分岐へと向かいます。北鎮分岐まで来ると、黒岳石室はもうすぐそこですまだ時間があったので北鎮分岐で一休みです。北鎮分岐からは凌雲岳、黒岳がとてもよく見えて、とっても気持ちのいいところです。僕は分岐の岩の上に咲くあるチングルマの群落が気に入って、彼らと凌雲岳、黒岳、雲ノ平の広がりを熱心に写します。霧の中ではなく、遠くまでよく見える午後だったので、気持ちにずいぶんとゆとりがあり、さわやかな時間を楽しむことができました。北鎮分岐の雪渓を下ると、そこは雲ノ平。雲ノ平は平坦で、ごろごろした岩などもなくてゆったりと散策することができます。右手にはお鉢平を源流とする赤石川が削った深い渓谷が見えます。鳥の声もことさら増えて、穏やかな日差しと共に黒岳石室到着です。石室は本州からの団体の方々でずいぶん盛り上がっていましたが、キャンプ指定地の方はがらがらです。よく眠れそうな予感がしました。
次の日は、朝からあまり天気が良くありませんが、霧だけで雨にはなっていません。今日は歩く距離はたいしたことはないので、ゆったりとしたものです。黒岳を出て、南に下って、赤石川の流れを渡ると、この日のハイライトである北海沢です。やはり北海沢はすばらしい光景で迎えてくれます。作品の一枚はこの北海沢で撮影したものです。 この作品では非常に大きな雪渓の縁に沿うように咲き始めているコザクラを見て下さいな。そんなこんなで想像以上に北海沢はすばらしかったので、予定よりもずいぶんと時間をかけて写してしまいます。時間が迫ってるよ!と慶ちゃんに促されて 、北海沢から北海岳に向かう登りに向かいます。しかし、ここでも、予想以上のすばらしさ目を見張ってしまいます。北海岳への登りの斜面は一面イワヒヒゲという白く小さな花が咲き誇り、まるでそこはイワヒゲの海のようでした。
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北海沢付近の小さな沢沿いで咲くコザクラ。いつ見ても可愛い。 |
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旭平のお花畑。姿見駅からすぐのところにこんな素敵なお花畑がある。 |
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白鎮分岐から雲ノ平方面へ下る雪渓。前方は凌雲岳と黒岳。
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北海岳に着くと、風雨が強まり北海平は吹きさらしです。それでも、キバナシオガマやコマクサなどの撮影をしながらなだらかな北海平を白雲分岐へと向かいます。北海平の終点、白雲分岐の手前は赤岳沢、花ノ沢の源頭です。花ノ沢もまだまだ巨大な雪渓のままで、融けたところはキバナシャクナゲが満開です。そんな花ノ沢源頭の雪渓の雄大さを楽しみながらついに白雲分岐に到着です。ここまで来ると、白雲岳避難小屋は目と鼻の先。30分ほど南に下ると白雲岳避難小屋があるヤンベタップ沢源頭です。
ヤンベタップ沢という沢は緑岳と高根ヶ原の間を深く削る沢ですが、この沢沿いにある高原沼と合わせてヒグマの保護地域になっていて、ヒグマの気配が濃いところです。明日は、ヤンベタップ沢を左手に見ながら、高根ヶ原を南下する予定。晴れればいいなあ!と思いながら眠りにつきますが、僕たちのテントは夜中ずっと風に揺れ、時折降る強い雨の音を聞きながら眠ることになりました。
朝起きてからも天気は雨模様なので、起きることはせず、テントの中でしぶとく寝ていると急に晴れてくるのです。僕は奇跡!と思い小屋から高根ヶ原方面を撮影、その後気持ちよくヤンベタップ沢源頭を見ながら、高根ヶ原へと向かいます。午後2時に必ず引き返すという約束で、一応忠別沼を目指します。
途中までとてもいい天気で、るんるん気分。まさにお花畑の中に続く散歩道です。もう一枚のコマクサの作品はこの高根ヶ原での作品です。高根の花とは言いますが、本当にここは高根の花の世界です。
忠別沼に着いたのは、午後2時過ぎ。約束通り引き返します。帰りは霧の中です。引き返し始めたとたん、クマの匂いです。僕は焦って、笛を定期的に吹きながらクマに自分たちの移動していく様子を伝えます。しばらくして、匂いからは遠ざかっていき、クマとの遭遇を回避できたことを喜びました。そして無事に白雲岳避難小屋のキャンプ指定地まで帰り着きました。
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ヤンベタップ川源頭を行く。
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高根ヶ原を快調に飛ばす慶ちゃん。花の散歩道!
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中岳温泉でくつろぐ
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小泉岳稜線で撮影中の慶ちゃん。
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