7月13日から16日までの3泊4日の大雪山行に続いて、今期第2段の大雪山行として7/31〜8/6の6泊7日の間大雪山に行って来ましたので、この撮影行の話題を中心に話を進めていきます。 大雪山は先月も話した通り、北海道の中心にある標高2000m級の台地上の高地で、いったんこの台地に乗ってしまうと、登山というよりは平地歩きの感覚に近いところです。そして、この2000m級の高地はほとんどが森林限界以上にあり、また、北海道を代表する大河川の源頭が幾筋にも分岐しながら集まり、その源頭の雪渓を中心にお花畑が広がっているようなところです。また、そのような源頭のお花畑だけではなく、遠くから見ると瓦礫しかないように見える稜線(風衝礫地ふうしょうれきち)でもその環境に適した花々が大きなお花畑を作っているようなところです。その他の環境、例えば、溶岩台地などで水が浸透していかないようなところでは沼や湿地が形成されていて、そこにはその環境に適したお花畑が広がっています。 こうして大雪山の2000m級の台地では、多種多様な環境があるものの、いずれもその環境の厳しさのために少しのエネルギーの無駄もなく、ほんのかすかな水や空気や温度を利用して花々が隙間なく生育しており、台地全体は足の踏み場もないくらいの数の花々で埋め尽くされています。 また、大雪山の魅力はこの台地上の様々な環境に展開するお花畑だけに尽きません。その山麓はなんと針広混交林の織りなす独特の森林帯で、秋には「世界中で最も美しい紅葉」と評される森林帯が広がり、また大小の湿原の存在や美瑛、富良野の丘陵地や十勝連峰の存在といった色々な環境が一所に集中していることもその魅力を倍増させています。 しかし、大雪山の一番の魅力というと、何より北海道の大河川の源頭が集まっていることだと、僕は感じています。例えば十勝川という川は、帯広のある十勝平野を造った大河川ですが、ご存じ十勝平野は麦やビート、じゃがいも、豆といった豊かな実りを約束してくれる平野です。この豊かな実りをもたらす十勝平野を造ったのは、何といっても十勝川そのものであり、十勝川は決して足を向けて眠ることができない偉大な存在です。その十勝川の源頭は大雪山南部にあり、十勝川源頭はそこここに展開するお花畑に送られて、大河川の最初の一滴を始めます。そして、十勝川は十勝平野という実り豊かな大平野を造りつつ流れ、その河口付近では再び湿原や沼を作り、原生花園と呼ばれる美しいお花畑を作り、海と出会います。 そして、その流れの両端を神聖で清らかなお花畑に飾られた十勝川の果たしてきた役割は言うまでもないでしょう。今回の6泊7日の大雪山行はその十勝川源頭がある、大雪山南部が中心となります。 僕たちは車でのアプローチのため縦走することができません。それで今回は大雪山北部から入山して南部に達した後、再び来た道を引き返して、入山した北部に帰ってきます。また、撮影をしながら歩くので、普通の人の何倍も時間がかかります。それと真ん中の日1日は雨のために一日テントの中に釘付けになったこともあって、6泊7日という長期間の取材になっています。ですが、たいていの場合、特に縦走が可能な人の場合、2泊か3泊すればたいていの場合歩けるほどの行程であるとお思い下さい。それと、トムラウシ南沼キャンプ指定地以外それぞれのキャンプ指定地には避難小屋があって、テントを持って行かなくても宿泊ができることも魅力です。というのも、単独行の場合、2泊、3泊となり、テント、寝袋、食料…とくれば、どんなに軽量化に気を配っても、20L近くなってしまいます。これでは、荷物が重すぎて楽しめませんね。その意味でも、山小屋や避難小屋はとても大事な施設と言えます。ただ、僕らのように二人で行く場合には、避難小屋がなくても二人で使えるのでテントを持っていけたり、共用部分が多くなるので断然楽になります。それでも、二人で撮影機材まで入れると25Lを越えるわけですが、単純に半分にして背負うと、なんと一人あたり12〜3Lで行くことができるのです。だから、宿泊の場合は断然二人以上で行くのが有利なのですね。一度背負って歩かれると分かるのですが、たいての人が背負って歩ける重さの限界は、12〜3Lくらいです。それ以上になると途端に苦しくなると思います。だから単独で大雪を歩く場合、この避難小屋の存在はとても大きいわけです。しかし、いびきには苦しめられると思いますので、耳栓だけは忘れないで持参しないといけません。 またリュックの容積ですが、僕らの場合、僕が40ャ、慶ちゃんが30ャで、合計70ャです。このくらいの大きさのリュックを背負って、しかも、撮影機材を持って6泊して来るというとたいていの人は信じられないという顔をします。信じられないくらい軽装備に見えるわけです。おまけに、僕たちは10泊は十分できる食料を備えています。この軽量コンパクトさの秘密は、撮影機材の負担分をできるだけ軽くするために、全く無駄を省いた装備にしていることによります。つまり、テントから寝袋、食器、食料の果てまで考える限り軽量化しているのです。このように軽量化することで体にゆとりが生まれると、周りの雰囲気を感じたり、それを撮影したりする余裕が心に生まれてきます。だから面倒でも荷物をできる限り軽くすることは大切なことだと思うのです。
続いて、具体的に今回の大雪山撮影行について話していきます。まず、基本的なデータですが、まず期間は7/31〜8/6の6泊7日。一日平均8時間ちょっと歩いて、7日間で56時間歩いています。撮影枚数は2300枚で、時速1キロ程のようです。 まず7/31、大雪山でも比較的よく知られている赤岳から登り始めます。赤岳は2900m程の山で、銀泉台という標高1600mほどの高地から登り始めるので、比較的簡単に登ることができます。まず、一枚目の作品はその赤岳の第三雪渓の作品です。赤岳は灌木帯を抜けて登り始めると、急峻な東斜面に草本性のお花が咲き誇る第一花園に着きます。その花園を上から見下ろすような感じで通るわけですが、ここは比較的背の高い花が咲く世界です。というのは、大雪山などでは冬の北西の季節風の影響で、東斜面には雪が吹き溜まり、夏場にも水分が豊富にある場所ができるからです。続いて、第二雪渓が見えてくると、その周辺はエゾノツガザクラやアオノツガザクラ、エゾコザクラが咲き誇る雪田のお花畑、第二花園です。第二雪渓から解けだしたばかりの雪解け水がちょろちょろと気持ちよさそうに流れています。まだまだ第二雪渓の雪はたっぷりと残っています。第二雪渓を登り、コマクサ平を通過すると第三雪渓にさしかかります。この第三雪渓はホロカイシカリ川の奥の沢源頭部にあたり、その源頭部に残る雪渓の横の急な道を登っていきます。何年か前この第三雪渓を通ったのは7月26日でしたが、もっとたっぷりとした雪が残り、まだまだチングルマやエゾノツガザクラ、エゾコザクラなどが咲き誇っていました。しかし、今年は季節の進むのが早いらしく、チングルマやエゾノツガザクラなどはすでに花の時期を終え、アオノツガザクラが満開です。アオノツガザクラはこのような雪田性のお花畑では一番最後に咲く花で、アオノツガザクラが咲き始めると、もう季節も終盤です。アオノツガザクラは作品を見ていただけるとわかるのですが、決して青い花ではなく、どちらかというとクリーム色をしています。この日は比較的晴れていましたが、ホロカイシカリ沢源頭部はやはり冷えるのでしょう、晴れた空を背景に何度も何度も霧を作り、その霧は風に流されてそのうちどこかへ消えていきました。 第三雪渓を登り切ると、すぐに第四雪渓です。第四雪渓は第三雪渓よりも豊かな残雪を遅くまで蓄えているところですが、今年はとても少ないようです。やはり、ここでもアオノツガザクラが満開で、わずかに残った白い雪渓を背景にクリーム色の花と濃い緑色の葉がとても綺麗です。この第四雪渓とアオノツガザクラの花畑の風景はこのたびポストカードにしますのでどうぞご期待ください。第四雪渓を何とか登り詰めると、赤岳山頂です。赤岳山頂からは、赤岳沢の深く刻んだ渓谷がよく見えて圧倒されます。高地なので樹木が生えず、川がどれほど大地を削ってきたかが一目で見ることができるわけです。ここまで登ってしまうと、あとはほとんど標高差はありませんので
最初にお話ししたように、僕たちは極限まで軽量化しているので信じられないくらいテントの中は狭いのです。しかし、とても綺麗なレモンイエローのテントなので、朝起きたときの目の前はとても綺麗です。 次の次の日(8/4)雨はようやく上がり、更に南下していきます。ヒサゴ沼より南、トムラウシ山が近くになってくると、風景や雰囲気はすっかり変わります。そして正気になってあたりを見ると、まるで異次元の世界に迷い込んだような錯覚に襲われます。「大きな黒い岩がごろごろしている」と表現すると、殺風景なつまらないところと思うことでしょう?しかし、実際にそこに行ってみると、岩のごろごろした風景を見やりながら、いいところだなあ!と思わず言わずにはおれなくなるようなところなのです。このごろごろした岩の隙間にはナキウサギが棲んでいて、ひっきりなしにピッチ!ピッチ!と鳴き声が聞こえてきます。だけど、このあたりが魅力的なのはナキウサギが棲んでいるからだけではありません。