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丘のうえの小さな写真館 北国通信の世界
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第89号 北国通信『カレンダー奮戦記』 2003年9月
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●NO1
8月7日大雪山赤岳を降りる途上、あと一月したら紅葉の時期になるから、どこから写そうかなあ?と色々と思い巡らせながら、登山道を降りた。しかし、一ケ月たち、大雪山は紅葉の時期を迎えたけれど、カレンダーの制作に思った以上に時間がかかり、今年もやはり大雪の紅葉には間に合わなかった。
今年こそは大雪山の紅葉に間に合いたくて6月からカレンダーの制作を始めていたのだけれど、その甲斐もむなしく間に合わせることができなかった。無念である。
9月8日頃、大雪山赤岳の山腹が紅葉し、沼ノ平が紅葉の盛期をむかえたという情報を得た。
しかし、まだその頃カレンダーの制作は色校正にまで達していなかった。少なくともあと10日はかかる…これでどうやっても紅葉に間に合うはずがない。僕はずんと落ち込んでいたけれど、それでも、山麓の紅葉になら間に合わせられると思った。しかし、それも難しくなってきた。9月19日カレンダーの2回目の色校正が来た。しかし、思ったより仕上がりがよくない。その色校正に更にたくさんの指示を加えて、印刷会社に返した。すると今度の色校正は23日だと言われる。9月は休みの日が多くてどうしても仕事がはかどらないのである。今度の色校正が良ければ、まだ何とかなろうが、良くないとなればもはや絶望的である。カレンダーの制作は難しい。
その反面で、ポストカードの制作だけはうまくいった。ポストカードは今年2003年、十周年ということで大奮発して新たに32種類を制作した。
8月25日、カレンダーとポストカード32種類を同時に入稿する。それから17日後の9月11日には文句のつけようのない仕上がりでポストカードは校了を出すことができたのである。カレンダーは9月23日になっても校了にならないから、それとは大違いである。
さてポストカード32種。今回も目が覚めるほどの美しい仕上がりで、自分自身驚いてしまった。9月9日の朝、印刷会社からポストカードの校正が届いているという連絡が入ったので、恐る恐る印刷会社にとりに行った。「第1回目の色校正」である。そして受け取ってから恐る恐る中をのぞいてみると、眠けが吹っ飛ぶほど鮮やかな仕上がりが出てきた。館に帰って、じっくり自分のフィルムと比較してみても寸分変わることがない。見事な色校正だった。32種類のうち、わずか2枚に対して「もっと明るく」と指示しただけでほとんど校了だった。その日は終日気分が晴れて、慶ちゃんと二人で乾杯をした。長い長い制作期間中、陰鬱に沈みがちになる気分がほんの少しだけ軽くなったのである。大げさかもしれないが、恐らくこの仕上がりは日本一だろう。
話は前後しますが、カレンダー制作の最初の5年間は、カレンダーの第8面の半分を使ってカレンダーの案内状をつくり、その半分で年間カレンダーを作っていました。しかし、年間カレンダーが小さくて使いにくいので、せめてカレンダーと同じ倍の大きさにしたい!という想いがありました。年間カレンダーを本体と同じ大きさ(21B×31.2B)にできると、並べて貼れば一月と一年とが同時に見渡すことができるのです。そこで案内状は自分たちで作ることにして、年間カレンダーを倍の大きさにしたのです。市販されているカレンダーで、年間カレンダーがついていないものが多いと思いますが、あれは手抜きなんですね。それと資源の無駄にもなります。7面あればカレンダーは作れるから、最後の8面目を捨てている…。もったいないことをするなあ、と思うことしきりです。
こうして年間カレンダーを大きくした後、案内状を館内で作るようになったわけですが、これが想像以上に大変です。印刷機は高くて買えないから、当然市販のインクジェットプリンターを使います。ご存じとは思いますが、このインクジェットプリンターというのは驚くほど遅いですね。例えばA3の作品一覧をプリントするのに、何と180秒もかかります。
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●NO2
これを何千枚と印刷しようとすると、200時間くらいもかかるわけです。それで今期その他の案内状まで含めるとプリントに606時間かかったのです。これを1台のプリンターにさせるとなると、2ヶ月かかっても終わらない量になります。そこで、プリンターの数を増やすわけですが、この増設に僕たちはこの1年間をかけてきたわけです。結果的にプリンター6台とそれに合わせてコンピューター6台を増設して「よし!これで万全の構えができた!」と思っていました。ところが思わぬところに落とし穴があったのです。たいていの場合、「イラストレイター」というソフトで作成しているわけですが、それにはバージョンが7.0と8.0と9.0があって、僕はそのうち一番新しい「イラストレイター9.0」という一番新しいソフトで作成したわけです。
この「9.0」は非常に便利になってはいるのですが、能力の低いコンピューターではプリントを刷るときに非常に遅くなってしまうのです。それを知らずに僕は全てを9.0で作ってしまったからたまりません。その影響で606時間もかかるはめになります。もし8.0で作っていたら、485時間で終わっていたはずなのです。そして単純に計算すればこれを6台のプリンターでやれば80時間、日数にすれば8日もあれば終わっていたはずなのに、実際は8月24日〜9月11日の20日間の不眠不休の戦いとなってしまいます。それで結局カレンダーの制作に30日、印刷に20日、その他7日と、60日近くかかってようやく完成したのが9月22日のこと。カレンダー本体の色校正も難航したのですが、案内状づくりも難航したというわけです。10月も初旬を過ぎればその案内状が届くと思いますが、とくとご覧下さい。特に作品一覧ですが、これは今の僕には荷が重いものでした。作品が小さく、質も良いとは言えないと思います。この作品一覧では、せっかく綺麗なポストカードなのに、これをうまくお伝えできないことが無念でなりません。「作品一覧ではよくわからないと思いますが実際は美しい作品に仕上がっています…」なんて苦しいこと書いてますが、これがホントのところです。これでも、ドイツ製の60万円もするスキャナを使って入力しているのですよ。来年はこんな苦しい目にあわないように、また一年かけて、案内状づくりの努力を始めようと思っています。
話はカレンダー本体に戻ります。さてカレンダー本体ですが、今年も日付欄をどうしようと頭を悩ませます。まずは、日付欄の位置が上によりすぎているから、これを2φ下に下げるなどといった細かいことから始めます。続いて「二十四節気」を差別化したかったので、書体を太くしてほしいと指示を出しますが、結果的に思った通りにはなりませんでした。デザイナーともっと入念な打ち合わせが必要だったわけですが、現実的には無理で、来年にこの課題は残します。次に、もっと楽しく正確に星や月の動きと共にいられるようにしたかったので、少し煩わしいでしょうが、専門用語を使っています。例えば、「水星 東方最大離角、夕方の西空低くに見える」といった表現です。「東方最大離角」という専門用語が問題です。「なんじゃこれは?」となると困るので、カレンダー補足ではこれを説明していますが、完全ではないでしょう。また水星は最大離角がとても大事なことですが、金星となると最大離角が問題ではありません。どっちかというと、最大光度を問題にするべきだと思いますが、混乱を避けて金星も最大離角で示してしまいました。そして何より、いずれにしても最大離角になる日だけ見える、と思われると困るわけです。その日を前後して水星なら2日ほど、金星なら一月ほどは見えるのですからね…。天文現象というのは、火星の大接近や彗星が来た!とか皆既日食だ!とかイベント的な正確のものばかりが脚光を浴びるようですが、本来はそうではないですね。本当はいつも星や月を身近に感じていることが大事なことですから、カレンダーではふと疲れて見上げた空に輝く金星や月を大切にしないといけないと思います。忙しい日常の中で、ふと見上げた空に明るい星が輝いていて、それが金星なんだと知る喜びは何にも代え難いと僕は思うのです。
さて、今回の作品ですが、一枚目は赤岳登山道から見る銀泉台の紅葉です。この紅葉を見たり写したりするにはそんなに体力がいらないので、大勢の人でにぎわいます。銀泉台ヒュッテまでは車で来ることができ、そこから登山道を30分ほど歩けば十分なところの紅葉です。ただ、最近はあまりに多くの人が来るので、週末はマイカーの規制があるので自家用車では行けなくなったと聞きます。この作品はなんと1995年。今から8年も前のものです。それ以来、この時期カレンダーの制作に追われて一度も行けないわけです。それで今年こそは!と想い「6月をつぶして、9月を!」とはりきって来たのですが、その結果やっぱり今年も行けないで終わってしまったということなんです。無念です。当たり前のことですが、自然は人の都合にあわせてくれません。自然に合わせて生きていく
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●NO3
とはとても難しいことです。でもあきらめてしまうにはあまりに綺麗ですね!!地球上で、他にこんなに綺麗な紅葉ってあるのだろうか?とさえ思いますよね。いえいえ、きっとあるはずです。もう少し前から制作を始めれば、きっと来年こそは間に合うはずです。来年こそこの紅葉の前に再び立てるようにがんばろうと思っています。そして、更にもっと綺麗なもっと輝いた紅葉風景と出会えるようになるのが目標です。
もう一枚はこれも、1995年の裾合平のチングルマの紅葉です。紅葉というよりは紅葉が終わり枯れかかった頃の渋い色調がいい感じの作品です。裾合平というのは北海道の主峰旭岳と安足間岳の間を流れるピウケナイ沢が作った平たい谷のことです。ここも、ロープウエーがあるので誰でも比較的簡単に来ることができ、お天気の日にはるんるん気分でお散歩することができるところです。ちょうどこの前夜雪が降って、高所は真っ白です。1995年9月18日のことです。
大雪山はたいてい9月の初旬に紅葉を始めて、中旬に冠雪を見て、その後10月に入ると冬本番です。本当に短い季節の流れです。このような短い季節の移ろいは北に行くほど顕著ですが、それ以上に、北海道のような低緯度(北緯45度!ちょうど赤道と極の中間です!)にある高所はもっと大変です。高緯度地方なら夏になると白夜に近くなっていきますが、大雪山では夏になってもそんなに昼間の時間が長くならないのです。その分冬に極夜(一晩中夜)にならないから熱収支は同じなわけですが、感覚的にどうも損をしている!と思えます。でも、白夜にならないツンドラ風景というもの粋だなあ!と思うこともあるし、ここに大雪山があって本当に良かったと思うことしきりです。今年ポストカード32種類の内大雪山のポストカードを8種類も入れました。なかでも『源頭に咲く』『錦織の花園』『ワタスゲの草原』は最高の出来です。
特に『錦織の花園』は大雪山の深奥にあるヒサゴ沼にある花園です。このヒサゴ沼というのは言葉にできないくらいいい雰囲気のところで、この雰囲気を大切にした作品をつくりたいと重ね重ね思っていました。そういう意味で自分が理想とする聖地を作品に反映できたことは、代えがたい喜びとなりました。ポストカードを創ること、これは等しく僕が生きることと同じですが、更にこのかけがえのない雰囲気が一人でも多くの人と希望や喜びにならないなら、創る意味はないとも思います。そして、ポストカードは切手を貼ればまた別の人の心の中に飛んでいくことさえできるものです。そうやって季節の流れや美しい世界こそが真実であることが広がっていってくれるとを願っています。テレビやラジオや新聞は揃いも揃って、政治や経済や犯罪がこの世の現実の全てのような顔をして人々の心を陰鬱なものにします。とんでもありません。この世はもっと美しい現実で一杯です。テレビやラジオや新聞はこの「美しい現実」を追いやります。どういう気なのかとテレビを見るたびに思います。メーテルリンク作「青い鳥」では、妖女の魔法によって時計から楽しくダンスを踊る美しい女の人が出てきます。チルチルがあれは何か?と妖女に尋ねたら、あれはおまえの一生という時間だよ!言うのです。
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