の世界
第104号 冬の川 二題 2004年12月
北海道 大沼
遊楽部川
●NO1 DEC 2004

お待たせいたしました。ようやく北国通信104号をお送りすることができます。遅くなって本当にすみませんでした。
それでは話を始めて行きます。どうかおつき合いください。
2004年末から年始にかけてカレンダーの発送は続き、それがようやく落ちつきをみせたのは明けて2005年1月10日頃になってのこと。その翌日、カレンダー発送の収束を機に、僕たちは念願だった札幌へ向かう。札幌のカメラ店で、撮影機材を実際に手にして見てみたいという気持ちが高まっていたのだ。函館ではカメラ店も減り、市内にカメラ店がほとんどないという現実は厳しい。
 札幌に向かう途上、昼間だというのに吹雪で前が見えない。道中ずっと荒天続きで、こんな目に合いながらカメラを見に行こうとしている自分たちのやっていることがとてもおかしい。札幌に着いたときには吹雪もおさまっていて、晴れ間ものぞいていた。こうして、朝から札幌市内に点在するカメラ店を巡り、普段見ることのできないカメラや印画紙などを見て回った。その夜はいつもの野幌森林公園のトド山口駐車場で眠る。朝起きるとマイナス14℃!札幌は寒いところだ。
さて、駐車場でお湯を沸かし、出ようと思うと、駐車場の狭い出入り口のところでトラックが雪にタイヤをとられて、 動けなくなっていた。聞いてみたら、夜中から動けなくなったそうな。レスキューからはもう10件も断られているという。トラックは雪にはまると、それを助け出せるのはそのトラックより重いか、それとも4WDのトラックしかない。そうこうしている内に、ようやく大型トラックの登場。早速ロープをかけて引っ張るけれど、びくとも動かない。あきらめかけていたところに、除雪のブルが登場。皆で懇願したら気軽にo.k. ロープをかけて引っ張れば、あれほどびくともしなかったトラックがまるでおもちゃのように引っぱり出される。改めて除雪ブルのパワーに感嘆する。以前、僕たちも支湧別川で営林署のブルに助けられたことがあるが、その日のことが彷彿されるできごとだった。
 それでようやく僕たちも駐車場から出ることができ、今度は約束していたフジフィルムの人に会いに行く。今年の春から、写真の講師をしないか?というお話をいただいていたので、その話をしにいった。その結果、まずは一ヶ月に一度札幌に来て、みんなと写真を撮ってくれればそれでいいから!とやさしく言ってくれたので、自信のないまま、引き受けることに。フジのマネージャーは写真に詳しい人なので、講師の職の話よりも、根掘り葉掘り撮影機材のアドバイスをいただく。春になったらこんな話をする時間はない。今だから聞ける貴重な話をたくさん聞いた。しかも、白黒の引き伸ばしのレンズのことで、ドイツの名門、ローデンシュトック社が誇るアポ・ロダゴンという最上級のレンズをプレゼントするから、2月の写真展の前日にでも取りに来て!というありがたいお話までできた。アポ・ロダゴンといえば、定価10万円を超えるレンズ。あまりに高価なものなので、まずはお借りするということにした。今使っている引き伸ばし機のレンズはフジノンEX80mmで、中古で2600円で買ったもの。これでも、十分と思っていたのだが、マネージャーが言うには、アポ・ロダゴンというレンズはすごい!んだそうです。いいから、まず使ってみろと!言ってくれた。
 話が終わった後、1Fにあるフジフォトサロンという写真展会場に行く。今年やってみない?と言われたが、まだまだ僕にはそんな自信はないことを告げ、丁重にお断りをする。今年、フジフォトサロンで写真展をやるということは、迷える子羊が血迷ったとしか言えない。でも、いつかはこんな立派なところで写真展をやりたいものだ。
 フジフィルムを後にした僕たちは、セブン商会という中古カメラ専門店に向かう。そこで、予約していたRライカの広角エルマリートR24mmを買い求め、ついでに、ニコンの20mmf3.5sがあまりに可愛かったのでつい衝動買いしてしまう。
こうしてライカとニコンの24mmと20mmの広角レンズを手にして函館に帰ることになる。
なんとも不可思議なことに20年も写真をやっていながら、こうして単焦点広角レンズを買い求めるのは初めてのことなのだ。僕が写真をやり始めた頃、お金もなかったせいもあって、標準レンズ(人間の視野と同じ広さを写すレンズのことをいう)より広角なレンズはズームレンズですませてしまえ!という気持ちが強かった。ちょうどその頃、良い悪いはともかく魅力的なスペックを持ったズームの広角レンズが次々に発売されていたこともあって、僕もそれらに飛びつき、最近までなんらそれを疑うことなく使ってきた。しかし、1年半ほど前の大雪山の撮影を機にズームの広角レンズの画質を疑い始め、ようやくこの度買い求めることができたというわけ。この広角レンズゲットも含め、外に出ると何らかの大きな収穫がある。この2日間の札幌行きも本当に抱えきれないほど多くの収穫があった。
 こうして、札幌から帰った次の日から今度は撮影機材などのテストのつもりで撮影を開始する。
まず一番大きな目的は白黒プリントにおいて、6×6判と35mm判から半切程度にプリントしたとき、プリント画質はどの程度差が出るのか?ということ。次に、多種多様な印画紙があるけれど、印画紙の違いはどのようなプリントの違いを生むのか?ということ。それから、ライカ、ニコン、ハッセルの各レンズの描写力の違いについて比較すること。などである。

●NO2 DEC 2004

まずは、そういった目的で撮影機材を車に満載して、いつもの大沼に向かう。最初は忠実に撮影のテストだと思って始める。しかし、段々と風景を巡っている内に、あまりに綺麗な風景に出合ってしまうと、テストどころではなくなる。思わず、カラーフィルム持ってきて!なんて叫んでたりする。2日目は大沼だけではなく、もっと足を伸ばして、八雲→遊楽→狩場南麓まで行く。3日目も同じく大沼→八雲→遊楽→狩場南麓を繰り返す。2日目の昼くらいからもうテストなんてどこかへ吹き飛んでいる。もう夢中で撮っている。特に3日目は猛烈に晴れて、その影響で各所で霧氷が見られ、美しさを極めた。霧氷というのはあまりの寒さのために、空気中の水蒸気が木の枝について、木の枝が銀色に光る現象で、良く晴れた朝に見られる。その朝の気温はマイナス10℃前後。   あ!そうそう、言い忘れたことがあった。雪の結晶が降ってくるのも、このマイナス10℃前後が最適とされている。札幌から帰ってくるその途上、中山峠という札幌とニセコをつなぐ峠の8合目付近から、雪の結晶が降り注ぐのが見られた!その時の峠の頂上付近の気温はマイナス10℃ほど。雪の結晶が降ってくると、車のヘッドライトを受けて、まるで無数のダイアモンドが降り注いでいるかのようにキラキラ光るのです。 もう、びっくりするほど綺麗なのです!頂上に車を止めて、しばし雪の結晶の鑑賞。いやいや綺麗ですね〜〜。でも、僕はこれを写さないといけないのです。もうほんのちょっとのところまで来ているのです。
 話を元に戻します。霧氷も雪の結晶も、そして樹氷も綺麗なものです。もう夢中にさせられます。その朝は霧氷が昼頃まで見られたのです。八雲の遊楽川沿いの道にさしかかった頃、霧氷の樹木の間ではオジロワシやオオワシなどがたくさん見られました。さすが鳥の王様なのでしょうか?ある程度近づいても逃げようとしません。遊楽川沿いに北西に進路をとり、遊楽山塊を北側に抜けると狩場山塊と遊楽山塊の二つの山塊に挟まれた広大な丘陵地帯に出る。この丘陵地帯を更に北進すると、後志利別川(しりべしとしべつがわ)沿いの町、瀬棚町と今金町に着く。この二つの町は狩場山南麓に位置し、以前はここから狩場山に行けたのだが、最近は林道の崩壊で行けなくなっている。かつて、瀬棚から真駒内川沿いに北上すると急峻な真駒内川沿いに狩場山に近づけ、その途上から眼下に見下ろす広大なブナの森はそれは壮大なものだった。この景観は少し違うが東大雪の三国峠の大樹海と通じるものがあり、原始性からすれば、もちろんこちらに軍配が上がる。
 さて、そんなブナの森の手前(南麓)は広大な丘陵地帯になっており、その昔わけもわからずこの丘陵を訪れ、わけも分からず写真を撮った。その当時の僕にはここの価値を知る目を持っておらず、いつも脚光を浴びる美瑛や富良野にコンプレックスをもちながら風景を眺めていた。それからしばらくは撮らず、最近になって何度か脚を向けるようになったけれどやはり何とかなくこの場所の価値がわからないでいた。しかし数日間、ここを訪れ、この丘陵の価値が初めてわかった。いつのまにか、この丘陵の風景は僕の心の中では思い出となり、故郷になっていた。そして20年間その丘陵の価値がわからないでいた間に、僕の中ではいつのまにかメルヘンの原点をそこに感じていたとも言える。しかし、その丘陵は幾ばくかの寂寥を伴うのだが、それがかえって数多くの日陰に生きる人の心のようで、僕にはメルヘンティックに見えた。若い頃は富良野や美瑛でもよかろうが、年と共にそうではなくて、もっと日陰にひかれ、日陰にまで目が届くようになる。おかしなことだが、僕はそのことを20年かけてようやく理解した。
 

狩場山南麓に広がる丘陵。この風景を撮りながら、生きてればいいこともあるなあ〜とつぶやいていた。

                               /Hasselblad 503cx Sonnar250mmF5.6

タンポポ咲く丘陵でくつろぐ慶ちゃんと有〜ぽん。有〜ぽん1歳半の春。今彼は5歳である。バックの山が狩場山。
春の狩場山南麓丘陵。
●NO5 DEC 2004

こうして今回は現在世界中で一番粒状性の細かいと考えるイルフォードパンFを初めて本格的に用い、風景を写した。      

 今回の遊楽川の白黒作品はこのイルフォードパンFで撮影している。6×6判からのプリントだがこの程度の大きさではほとんど粒子はわからない。この川の作品自体粒子のわかりにくい作品ではあるのだが、それでも粒子は見えない。問題はこれを半切、全紙に伸ばせるかどうかだ。今回はこの課題をテストする時間はなかったので、今後楽しみにしていてほしい。
 今回の白黒作品は雄大な遊楽川の蛇行している様子を写したもので、長いこと横目で見ながら今まで一度も撮れなかった風景。
この日は霧氷が綺麗で雪が大地を覆い、とても綺麗だったので、写すことができた。小さなことかもしれないが15年の宿願であった。遊楽川はこの先段々と川幅を狭めて行くけれど、その河畔には冬になるとオオワシやオジロワシが姿を見せ、彼らの行動には圧倒される。このことはあまり知られていないので、他言なきよう頼みます。それを知ってか知らずかかなり開発の波をかぶっている川でもある。僕は好んで鳥などは撮らないが、撮ろうと思うといとも簡単に撮れるほど彼らとの距離は近い。それが八雲、遊楽である。
かつて、この遊楽川沿いの道道で夕日を写していたとき、目の前に熊が飛び出してきて、僕も熊も驚いたことがあった。春には道道でさえいつでもクマの匂いがたちこめている。そういうところなのである。
 続いて、今度はカラーの作品。これは大沼に流れ込む軍川(いくさがわ)の冬の夕暮れの様子。大沼との接点は湿原になっており、極めて雰囲気の良いところ。この作品は湿原になっているとことからわずかに下流。それでも、この湿原付近の散歩ほど気持ちの良いところはなく、大沼の隠された魅力です。やはり湖や沼を撮る場合、川との接点は面白いところが多く、風景としても、野生動物との出合いという点でも魅力一杯です。野生動物たちのすみかに土足で入るような目で見られないように注意しながらお散歩すれば、とてもいい気持ちにさせてくれるところです。
 この作品と同様に下の白黒作品は大沼から流れ出す折戸川の作品。とうとうと流れる冬の川の様子を白黒で写しています。
もちろん、同時にカラーでも写しており、特に夕暮れ時、白い雲や青空や夕焼け雲が空に混在した様子が川面に映った姿はそれは綺麗で、まるで虹の川を見ているようです。また、これにさざ波が加わり、樹木の影を揺らすところなど、とても魅力一杯です。このさざ波は遅いシャッター速度で写すと、ぶれて写らないので、この時ばかりは速めのシャッタースピードで切る方が良いようです。
 以上、テストをかねての3日間の撮影でしたが、わかったことも多数ありましたが、それ以上に撮影に専心してしまいました。   特に狩場山南麓に広がる丘陵地帯ではまだ到達していないところも多いため、この北国通信を出し終えた後も続けて取材していきたいと夢を膨らませています。そして併せて更に北上して、冬の積丹半島をもう一度撮ってみたいと思うことしばしです。去年まで制作に追われ続け、冬の撮影ができなくて寂しい思いをしていましたが、今年は少しは時間がとれそうなので今後がんばって写していこうと思っています。そして、来るべき春に備えたいと思います。
 北国通信、予定よりも遅れていますが、白黒プリントの不慣れなのが原因。驚くほど初歩的なミスを犯しながら、右往左往しながらやってます。今後に期待下さい。よろしくお願いします。

冬の静寂、大沼 折戸川風景。川面を吹き流れるさざ波が心地よい。
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