の世界
116 『桜咲く五稜郭とポストカード倉庫建設』 20065
新五稜郭タワーから見た、桜が満開の五稜郭全景。(2006.5.16撮影)
 今年の春は雨が多く、気温の上がらない日が続いた北海道は、例年に比べて桜の開花が遅れた。
そのため、たいていはゴールデンウイークの前か、その最中に満開となる五稜郭の桜はゴールデンウイーク後の5月14日頃に満開となった。
 感覚的には、例年より10日ほど遅れたように感じられた。
それで5月15日、16日、17日の3日間、僕は待ちに待った五稜郭の桜を写しに出ることができた。
その一番の目的は上の写真にある新タワーからの五稜郭全景の撮影をすることだった。
 
 そのうち、16日は霞みながらも夕刻間近には透明度も上がり良く晴れて、上の写真にあるように実に抜けの良い、五稜郭の全景写真を撮影することができた。
 15日は、風邪の影響で頭痛と吐き気に苦しめられながらの撮影だったが、明けて16日の撮影は体の調子も良く、空気も澄んで申し分のない手応えを感じながらの撮影となった。
 上の五稜郭の全景はライカの広角レンズ、エルマリートR24mmで撮影している。
このレンズを付けてファインダーを覗くと、広角レンズ特有の歪みが少なく、意外なほど端正に見えたので、これでも良いのだが、やはりもう少し広く撮りたい!という強い気持ちも抑えがたかった。

 このことは事前にわかっていたことだったので、僕はしばらくもっと広く撮れる広角レンズを探していた。
第一候補はライカの最新のエルマリートR19mmというレンズだったが、新品では25万円、中古でも15万円もするレンズであったので、桜が満開になる3日前まで悩んだが、結局この春はあきらめてしまったのである。

 19mmともなると、その画角は対角線95度に及ぶ超広角レンズで、普段僕はこうした超広角レンズをほとんど使わないことから、買うのをためらってしまったのである。
 しかし、五稜郭全景の本丸となるのは冬に電飾された五稜郭の撮影であるため、絶対に冬までにはエルマリートR19mmを携えなければならない!
 五稜郭は冬になると、市民の有志によって電飾が施され、それが雪原に星形に浮かび上がる。その姿が今年の冬からは新タワーの新しい視点より撮影することができるからである。 ぼくはこうした星形に電飾された五稜郭に雪が舞う姿の美しさを長年夢見てきた。
透明度の高い冬の宵に、光が点々の灯された雪で覆われた白い大地に、雪がはらはらと舞う様子は何度見ても心にしんみりと来る。大地の底が透き通って、地面の底が見通せるかのうような美しさ。雪の女王が支配するそんな世界を垣間見ることができるのである。
 そして、僕は今までこうした世界の美しさを完璧に満足できるまでに引き出せていない。今まで発表してきた作品はどれも実際の美しさに劣るものばかりで、それらを見たお客様方から「感動しました」と激励のお手紙をいただいても、心苦しかったのである。
 そして、心の中で何度も「がんばります」とつぶやいていた。今年の冬こそライカの19mmを携えて、冬の大地が見せる最高の高まりを写してみたいと思う。長い冬のことであろうが、チャンスはそう多くはない。チャンスはほんの十数分しかないだろう。それを見極めることができ、その時に僕がライカの19mmを携えていたら、必ずや自分の想う五稜郭の美しさを完璧に記録できることになるだろう!

■五稜郭タワーを後に
 
 五稜郭タワーからの全景の撮影は太陽の差し込む角度のことを考えて、30分ごとに数枚づつ撮影していった。
経験的に数少ない桜を浮き出すように写すには「できるだけ強い横からの光が有効」だと知っているからである。
 なぜなら、ものは横から当てた光によって立体感が生まれ、それに夕刻の赤い光が加わることで桜の存在が普段よりもより強調されるのである。しかし、春のように霞んだ夕刻は大気のもやの関係で、日が傾けば傾くほど、光が弱まってくるので、この丁度よい案配を見計らう必要があるのだ。
 こうして、僕は最初のページの桜の五稜郭全景を撮った。たったこれだけのことだが、僕はこの一枚のために4時間ここに居座っている。

 そろそろ、夕刻の光が弱まってきた頃、重い腰を上げて、五稜郭タワーを後にする。
そして、ライカを三脚に付けて軽快に堀の側を歩いていく。普段のハッセルブラッドと違って実に軽快な足取りである。
 夕日が差しこんで、美しく輝きを放つ桜を次々に写していく。露出計もカメラに内蔵されているので、わずかな補正を加えるのみで、実に快適な撮影である。
 しかも、ライカR8のファインダーの見え味ははなんて綺麗なのだろう!桜の花びらの一つ一つ、樹幹に刻まれた黒々とした切れ込みが鋭く目に焼き付いていく。

 そして、とうとう太陽が沈むその瞬間に五稜郭一の橋側の枝垂れ桜のところまでたどり着く。夕照が桜をより赤く、より鮮やかに染め、普段の淡いピンクのソメイヨシノがまるでオオヤマザクラのように色濃く染まる。

 何年か前、五稜郭の桜は強い剪定を受けて、ほとんどの桜が頭を抑えられてしまい写真になりにくくなった。
しかし、前ページの作品や上の写真のように光の状態を見極めながら根気よく探していくと写真に撮れる瞬間がまだ結構あることに気がつく。
 確かに全体、全景はぱさっとして寂しいのであるが、部分部分良いところを見ていくことも必要であり、そうした良いところを探し回って撮る撮影にはライカのような小型カメラは実にいい。
 
 しかし、この枝垂れ桜の撮影だけは翌日の夕刻にハッセルブラッドも持ち出して撮影する。このときは、夕照だけではなく、夕焼け雲に照らされて、赤く燃えた桜花まで撮ることができてまさに幸運だった。

 桜の時期はこうして終わっていくが、五稜郭では次の季節巨大なツツジや藤が満開を迎える。そして睡蓮も美しく堀を飾るようになるだろう。
 せめて、もう一度時間が許せばツツジと藤を撮りたいという想いが胸にある。
しかし、5月の北海道はあちらを撮ればこちらが撮れないという、贅沢な季節でもある。五稜郭のツツジや藤を撮るためには、その分あきらめなければならないことも多い。

           まさに寝ている暇などないのが五月の北海道である! 

『ポストカード倉庫の建設』
■ポストカード倉庫の建設
 
 長年の夢だったが、時間とお金の都合がつかずあきらめていた。
そのポストカード倉庫の完成が間近である。
 冬の終わり頃、慶ちゃんと今年の予定について話し合っていたときに、もう何度目になるのだろう、ポストカード倉庫の話題が出た。
 いつ造るのか。また造らないのか。予算30万円。最近の僕の立てた方針では一刻も早く撮影に復帰し、軌道に乗ることであったので、倉庫建設には僕の方が長いこと難色を示していた。
 しかし実際には、今年造るだろうポストカードの収納にも困っていた現状を無視して、これ以上倉庫造りを先延ばしにすることができない待った無しのところまで追い込まれていた。しかし逆に、丘のうえの小さな写真館のあるこの場所にこれ以上いたくないという気持ちや、倉庫造りによってまたしても季節への復帰ができないことに対するいらだちもあったので、僕はできうる限り倉庫造りを延期していたかった。

 しかし、造るなら4月か、さもなければ8月。これ以外では撮影に影響が出ることを慶ちゃんに告げた。 
「目を閉じて、僕は天を仰いだ…。」
 そして次の瞬間僕の方から「やるか!一か八か」「4月中に完成することができたら、少なくとも桜の季節には間に合うだろうから、失うものも最小限にくい止められるだろう!」ということで、4月中の完成を目指して、とてつもない大きな仕事にとりかかった。

まず、倉庫を建設するためには、今から11年前に僕が造った小さな物置と隣にあった鉄製の物置を壊さなければならない。
 僕が11年前に造った物置は木造であったので、思ったより簡単に自然に帰った。しかし、困るのは鉄製の物置である。鉄はなかなか自然に帰らない。 しかし、なんとか二つの物置を壊し、取り除き、ポストカードの倉庫建設に取りかかった。4月8日のことである。

金 槌
ノコギリ
 材料は、北米のスプルース材。いわゆる2×4材と1×4材を骨格とした。
別に倉庫を建てるノウハウなど一つもないので、造りながら理論的に正しいというやり方を模索していくというやりかただった。従って、プロが見たら、思わず吹き出したくなるような工夫を凝らして乗り切っていく。
 時を同じくして、丘の一番上にあるお寺で増設工事があって、彼方からも金槌の音が響いていた。しかし、向こうはさすがにプロの仕事。見る見るうちに仕事が進んでいく。魔法のような速さである。ナメクジと光の速さくらいの差はあろうか。有〜ポンにも家がどれだけたくさんの柱で建てられるか、プロの仕事を見せに行ったりもした。

 使った道具のメインになったのは、上にあるノコギリとかなづちと電動ドライバー。ノコギリは材木を切るために使うのだが、段々切れなくなってきて最後は大変だった。
 かなづちは貰い物のかなづちで、非常に大型のものだったが、これぐらいの大きさのものがなければ、6.5cmのステンレスの釘は打ち込めなかった。

最近の釘は釘が抜けないような加工が施されているので、従来の釘に比べて釘打ちは非常に大変だった。
 「ドリル釘(ねじ釘)を電動ドライバーでねじ込んでいけば、そんなに苦労はしないのだけれど、外壁の場合ステンレスの釘にする必要があり、高価なステンレスのねじ釘をやたらと使うことはできなかった。
価格が問題になるのだ。
 しかし、ステンレスでも普通の釘は比較的安く、一円でも安くするためにはかなづちで釘を打ち込む必要があったのである。

左のが台湾製、右のはボッシュ社(ドイツ製)の電動ドライバー。
できうることなら、最後まで左の台湾製のドライバーでやりたかったが、途中でモーターが焼け付いてしまった。
次に、電動ドライバーもよく使う道具。最初は、上の写真左側の台湾製のもので全部を完了することが目標だったが、途上、やはり焼け付いてしまった。
 それで、ホームセンターに行って、同等のものを買ってこようとしたが、最近の同じ価格(3000円程度)のものはこれに比べて性能的に手抜きされたものしかなく、どうしても買う気になれなかった。
 それで、仕方なくホームセンターでセールになっているリョービのドライバーを考えるが、どうも値段の割にモーターの音や匂いが気にくわない。
 それで、思い切ってドイツ製のボッシュの電動ドライバー(インパクトドライバー)に決める。ホームセンターではこうしたプロ用の物は置いていないので、函館唯一のプロショップ、日本一金物にお世話になる。
 
 最近の電動ドライバーはバッテリーの進歩の影響で上の写真にあるように手で持つ下のところにバッテリーがこぶのようについている。
 これを2個取り替えながら使っていく。ねじ釘を200本も打てば、もうバッテリーはなくなってしまうので、充電しながらの作業だが、コードがないので、実に作業がしやすい。
 しかも、その力は台湾製の13倍。まるで吸い込まれるようにねじ釘が入っていく。
 これはおまけに付けてくれた+ビットの性能にもよる。
ホームセンターなどで安い振りをして売っている+ビットなどは食いつきが悪く、すぐにはずれてしまうのに、日本一金物のお兄さんがおまけで付けてくれた+ビットは実にすばらしい!
 その時になって始めて、ホームセンターの安売りにだまされていたことを知る。この世にはだましの、偽物が何と多いことだろう!実に嘆かわしい。
 また、写真右、屋根がついたところのポストカード倉庫。屋根!!この値段の高さにも脱力した。
屋根だけになんと5万円近くもかかってしまうのである!!もちろん、屋根に断熱材や屋根裏を造ったりはしていない!この頃は、まだ前にあるブナの木の葉も昨年の茶色の葉を付けてまだまだ早春の気配である。

 こうして、完成と共に北国通信をかけると思っていたが、残念無念。いまだに完成を見ない。
おそらくは後延べ日数、3日あれば完成するだろうが、細かいところをやっていくと、時間はどんどんかかっていく。
しかし、窓を中古で探してきたり、壁紙のことでもめたり、材から出るホルムアルデヒドの影響で頭痛やのどの痛みに悩まされたりしながら時は過ぎていった。
 しかし、もうすぐ完成である!このままの色合いにすべきか、ペンキを塗ろうか、楽しい想像はこれからである。
 そして、ポストカードを運び込む日がいつか必ずやってくる!これまで2階の北側の部屋を一つポストカード倉庫に使ってきたが、いつ底が抜けるか冷や冷やだった。この底が抜ける不安から開放される日も近い!!
 そして、来年から心おきなくポストカードを造ることができるし、写真集だって夢ではない。(もちろん、倉庫にしまう間もなく完売した方がよいのだが…)
 完成したらその時はまた再び完成のお知らせをいたします。どうぞ、ご期待下さい!

追伸)
 倉庫建設最中、僕たちは庭にずっと林檎とひまわりの種を欠かさなかった。
すると、冬と同じように毎日のようにヒヨドリがやってきて、林檎を食べていた。丘のうえの小さな写真館の煙突近くに開けた穴にはコムクドリの夫婦が棲み、よくヒヨドリと喧嘩をしていた。
 珍しいところでは、ノゴマというのどが赤い小鳥が来たり、ウグイスがほんの側まで近寄ってきたり、エゾリスが餌台に来たりと鳥たちや野生動物のにぎわいは大変なものだった。
 雀などは倉庫のすぐ側の換気口で子育て中である。
しかしこの季節、鳥に食べさせてあげられるような林檎がもはや手にはいらなくなり、残念である。
 それまで、小鳥用の餌を餌台に置いていたが、それをひまわりの種に換えると、より多種の鳥たちが集まるようになった。もし、ご興味ある方は是非一度ひまわりの種を試されたし!
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