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LP-4『夏の小さなお花畑』
ここは北海道は大雪山,赤岳(あかだけ・2078m)で季節は夏,7月下旬頃です。大雪山というのはたくさんの山の総称で,この赤岳を始めとして,黒岳,緑岳,白雲岳,そして主峰である旭岳(あさひだけ・2290m)などたくさんの山々が連なっています。この赤岳は標高1100m付近にある銀泉台というところまで車で行けたり,黒岳や旭岳は山頂近くまでロ−プウエ−が通じているので,比較的簡単に登ることができます。天気のいい日などはそれはそれは気持ちのいいところで,空気がとてもおいしいところなんですよ。この作品を撮影した日も抜けるような青空の広がった日で,ぼくたちは山頂まで行かず,ふらふらお花畑を楽しみながら,朝早くから夕風が吹きはじめて少し肌寒くなるまで,登ったり降りたりしていました。ピクニックがてらの気持ちのいい撮影だったと覚えています。
手前の白い花はチングルマ,そのむこうのピンクのがエゾノコザクラという花で,いずれも小さくてとても可憐な花なのです。
季節は確かに夏なのですが,このお花畑を見ているときの感覚はちょうど北国に春が訪れたときの感覚に似ているような気がします。雪がぽかぽかしてきたお日様に照らされて,ゆっくりと溶けていき,その溶けたあとに長く雪に押さえつけられていた下草を突き破って春の芽が吹き出してくるあの感覚とです。そしてほんの春のひとときに小さく花を咲かせたかと想うと,暖かくなる前に枯れてしまう,早春を飾る妖精たちと似ているような気がするのです。少し違うのは,ここ大雪山では花が咲いたかと想うと,もうすぐそこに冬が来ているということです。白い死の世界がもうそこまで迫っているというのです。この小さな命と,白い雪の美しい対照の影にある生と死の対極には心を打たれます。8月下旬には紅葉が始まり(手前の白い花のチングルマの紅葉はとても美しいです)9月には世界一美しい紅葉となり,10月にはもうすかっり冬の世界になってしまいます。このあわただしい時間の経過を想うと,ぼくはやるせなくなってしまいます。ほんの一瞬間の小さな命、このことを想う胸の切なさはいったい何なのでしょうか。