撮影機材
ズミルックスR80mmf1.4
ズミルックスR80mmf1.4

  写真を始めた頃、僕はどこか記憶の彼方でこのレンズを見ていたような気がします。
鏡胴の奧にレンズ前玉が奧詰まったその奥ゆかしく上品なその雰囲気を
ぼくはかつてどこかで見たような気がします。

しかし、その頃の僕はニコンのレンズさえも買えない状態にあり
かつての僕にとって、
このズミルックスR80mmf1.4だけでなく、R型ライカは神秘のベールの彼方にあったものです。
気にはなるものの、横目で見る程度の存在でしかありませんでした。

そんな感じでしたから、
どこかで見たかもしれなかったのですが、それがどこだったのか
そしてそれがズミルックスR80mmf1.4だったのかさえわからないのです。

でも、今僕にとり
このレンズはとても身近な存在になりました。
しかしその描写の個性は、つかめるようでつかめないやはり魅惑的な存在です。
しかし、やはり今でも鏡胴の奧深くに位置する大きなレンズを見ていると
なんて上品で美しいのだろうと思います。

そしてズミルックスR80mmf1.4の明るい口径と
ライカR9のクリアなファインダースクリーンの組み合わせにより
美しい光にしびれるようなピントを見せてくれます。
目を通した光、それがいくら微かな光であっても
それは脳の奧まで届いて、強く美しく刺激し
その記憶はどんなことがあっても消えることはないほど鮮烈なのです。

写真を撮ることは確かに光をフィルムに届けることであるわけですが
その前に、レンズを通した光を我々の目が受け取り
その美しに感動し、初めてシャッターを開き
フィルムに光を導くのであります。

そういうわけで、僕はファインダーでの見え方にとてもこだわるのですが
このズミルックスR80mmf1.4の見え方は本当に美しいものです。

そして描写というと
ライカによると、ソフトな描写とされていて
確かにアポマクロエルマリートR100mmのシャープネス
アポズミクロンR90mmf2 ASPH.の抜けの良さ
と比べると、確かにそうだと思うのですが
それは単にソフトな描写というのではなく
“深い階調をともなった描写”と言うべきだと思います。
ニコンの85mmのようなカチッとシャープな感じとは違い
輪郭を出すことなく、かといってぼけるわけではなく
この描写の感じは、国産レンズに慣れた人には
よくわからないのだと思います。

またコントラストもないと、ライカは言いますが
全くそんなことはなく、
コントラストもハッと驚くほどのものがあります。

焦点距離が風景にちょうど良い80mmということもあって、
僕はこのレンズを開放付近でも、絞っても頻繁に使うわけですが、
そのいずれにおいても、ほ〜っとうならせてくれる描写を見せてくれます。

見た目の上品さ可愛さだけではなく
その描写も本当に見事なレンズだと思います。

ズミルックスR80mmf1.4 カラー作例
この画像ではわかりにくいかもしれませんが、
中心となるクロッカスの微妙な黄色の分離がよく、
さらにほんわりしっとり濡れた感じをクロッカスに与えてくれます。
ぼくはかつてこうした花の撮影には100mmのマクロレンズがあればそれでよいと考えて
なんでも100mmで撮っていましたが、
それは間違いで、
実際に100mmで撮りにくいなあ〜と思っても
80mmに変えてみると、あ、撮れる、って思うことがしばしばあります。
80mmはその描写も花をその独特の美しさで表現してくれますが
その80mmという程良い焦点距離のために、また違った美の世界に
僕たちを引き込んでくれます。
ズミルックスR80mmf1.4のF値の明るさを生かし、
可能な限り速いシャッター速度を使い、地吹雪を止めて写した例。
こうした撮影で中判カメラを用いると、そのF値の暗さのために
地吹雪が止まらず流れてしまって、つまらない写真になってしまう。
単品ポストカードシリーズPS-47『ハマヒルガオ可憐』

この作品を撮ったときに僕はズミルックスR80mmf1.4の
コントラストの高さを実感しました。
たいてい国産の明るいレンズは
フレアが多くて、画面が白っぽくなってしまいます。
しかし、ライカのズミルックスR80mmf1.4は
コントラストはハッと驚くほど高く
そのくせ描写は甘いという不思議なレンズです。

Rライカのレンズの中でも特に特徴のあるレンズだと思いますが、
このレンズの傾向は新型のエルマリートR19mmf2.8にも通じ、
そのどちらも独特の甘い階調をみせてくれます。
ズミルックスR80mmf1.4 白黒作例
ズミルックスR80mmf1.4 による白黒作例1

この作品は北海道道南の遊楽部岳山麓の冬の山林を撮ったものです。
光の状態はというと、冬のか弱い遅い午後の光が半逆光気味に射し込んできています。

こうした状況下で、樹木の枝先は微妙に光、冬の午後の気持ちよさが出せるかどうかがポイントです。

僕はこの場面で多くのライカレンズを用いましたが、
中でもズミルックスR80mmf1.4で撮影したこのプリントが
この場の状況を美しく表現していました。

決して樹木の枝先はシャープな表現ではありませんが
それでもぼけるのではなく、
柔らかな光の印象を感じさせてくれています。

こういった状況で
オレンジのフィルターを使うかどうか迷いましたが、
この時にはノーフィルターで、コントラストを高めるよりも
その場の光の雰囲気に忠実に表現しようとしています。
ズミルックスR80mmf1.4 による白黒作例2

この作品は北海道道南、津軽海峡の日浦岬の岩場を写したものです。
『波』と題し、この作品は白黒の写真ポストカードとして制作、販売中です。

このポストカードは引伸時、フォコマート2cのフォコター60mm
富士のレンブラントというバライタ紙という組み合わせでプリントしています。

撮影レンズはズミルックスR80mmf1.4なわけですが、
このプリントの場合、ズミルックスR80mmf1.4の柔らかさと
富士のレンブラントの印画紙であることが重なって
少しシャープ感にかけた仕上がりです。

ですが、ズミルックスR80mmf1.4も
富士のレンブラントのどちらも特有の階調が魅力ですので
その相互作用により、他の印画紙による場合よりも
階調の出方は良い感じです。

結果的にズミルックスR80mmf1.4の階調の豊かさが
富士の印画紙によって強調された感じに仕上がりましたが
これはこれで満足のいくものです。
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